生成AIが“真のデジタルツイン”のカギに、モノづくりプロセスはどう変わる?:デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(7)(2/3 ページ)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。第7回となる今回は、生成AIおよびフィジカルAIの進化と、モノづくりプロセスの変化について解説する。
生成AIやフィジカルAIとの融合による現実世界とデジタルの接続
これらの課題が、生成AIやフィジカルAIとの融合の中で大きく変わろうとしている。「フィジカルからデジタルへ」という面では、暗黙知となっていた現場ナレッジを生成AIでデータとして整形し、引き出せるようになった。またIoTデータなどの多岐にわたる種類の膨大なデータを容易に整理し活用することが可能になることでデジタルツインがシステムとして自動でつなげられるようになってきた。
例えば、暗黙知となっていた現場ナレッジを生成AIで活用できるようになった事例としては、オムロンの取り組みなどがある。オムロンでは、設備保全のノウハウや過去のトラブル報告書などを生成AIにRAG(検索拡張生成、Retrieval Augmented Generation)の形で参照させ、機器トラブル時に原因や対策をAIに出力させているという。
また、膨大なIoTデータを分析しデジタルにつなげている事例としては旭鉄工の取り組みがある。旭鉄工では「AI製造部長」として各製造ラインのIoTデータをAIエージェントが自動で分析し、自社で蓄積した判断基準や現場ナレッジに基づいて判断する。異常があればSlackなどにポストするといった運用を行っている。今までリソースの限界で分析されきっていなかったIoTデータが、効率的に分析されてデジタルと接続できるようになってきている。
加えて、デジタル側から現実へのフィードバックについても「×AI」でスムーズな連携を実現するため、具体的な取り組みが進もうとしている。例えば、ロボットや自動運転車におけるAIの学習には、まず基盤となる学習環境を構築することが大変だが、これらを効率的に行えるように学習対象の3D環境を合成し高速で学習できる世界基盤モデル(World Foundation Model)構築などが進んでいる。これらを生かしつつ、物理法則を学習するフィジカルAIの取り組みも活発化している。
またロボットにAIが組み込まれるEmbedded AIにおいては、ヒューマノイドロボットなどを代表とし、プログラムした通りに固定的に動くのではなく、その場の状況判断や人の指示をもとに柔軟に動作コードを生成し動くロボットが実装されつつある。フィジカルAIやEmbedded AI、ヒューマノイドロボットの進化については次の記事で詳しく紹介するつもりだ。
これらを通じて「デジタルから現実」「現実からデジタル」で分断されていた要素がつながり、デジタルツインが本来の意味の「ツイン」へと進化し、デジタルと現実のデータサイクルが回ることになる。従来の課題をAIがどのように解決するのかを以下で示す。
「×AI」を通じたCPSによるデジタルと現実の接続
- 【現実】×AI:人の暗黙知を生成AIとRAGで活用可能に
- 【現実】×AI:膨大なIoTデータを分析、処理し迅速にデジタルに接続
- 【CPS】×AI:Generative Designや、CAD AI Agent、ゲームエンジンAIエージェントなどをもとに3D環境を生成
- 【CPS】×AI:CAE等のシミュレーションロジックをAIで生成
- 【CPS―上位システム】×AI:生成AIがシステム間連携やデータフォーマット変換
- 【現実】×AI:フィジカルAI、世界基盤モデルがロボット学習を高速化
- 【現実】×AI:Embedded AIで柔軟に動作を切り替えることができるロボット/ヒューマノイドロボットの進展
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