疑似的な毛周期を構築し、皮膚組織再構築の仕組みの一端を解明:医療技術ニュース
理化学研究所は、ヒト毛周期の時系列的な1細胞遺伝子発現解析手法を開発し、毛周期に伴う皮膚組織再構築の分子および細胞メカニズムの一端を明らかにした。
理化学研究所は2025年9月5日、ヒト毛周期の時系列的な1細胞遺伝子発現解析手法を開発し、毛周期に伴う皮膚組織再構築の分子および細胞メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。ポーラ化成工業との共同研究による成果だ。
研究は、周期的に毛を産生する毛包を1つ含むヒト皮膚組織片(単毛サンプル)19個から、サンプルごとに1細胞データを取得して進めた。まず、毛包角化細胞の遺伝子発現情報を2次元空間にマッピングし、得られた19個の点を最短距離で1周するルートととして連結した。この疑似毛周期は、遺伝子オントロジー解析により、生体の休止期、成長期、退行期という毛周期の流れと一致することを確認した。
疑似毛周期の時間軸に沿った遺伝子発現パターン変化を解析したところ、単毛サンプルで検出した16種類の各細胞ついて、休止期、成長期、退行期でそれぞれ発現上昇する3つの遺伝子クラスターを特定できた。また、細胞間シグナル伝達に関わる分泌因子とその受容体の相互作用を全ての細胞種間の組み合わせで推定すると、退行期で細胞間コミュニケーションが増えることが分かった。
退行期では、毛包角化細胞のアポトーシスに伴って毛包が退縮し、その周囲で皮膚組織が再構築する。退行期の皮膚構築には、毛包周囲の線維芽細胞、血管内皮細胞、白血球が働いており、特に線維芽細胞は退行期前半で細胞外マトリックス(ECM)の分解に、後半でECMの新生に関与していた。
皮膚再構築の現象への理解を深めるため、細胞間のコミュニケーションとそれらが細胞機能に与える影響を解析。各細胞種での特定の遺伝子群が活性化されるシグナル経路を予測したところ、毛包周囲の線維芽細胞では、毛包角化細胞を含む他の細胞からの分泌因子を介して線維芽細胞のECM分解、新生機能が高まることが示唆された。
今回の研究成果は、ヒト組織再生と再構築原理の解明、新たな治療法開発への応用が期待される。さらに、周期的に進行する生体現象において、多様な細胞種の状態や相互作用の動的変化を時系列で解析するための新たな技術基盤になり得る。
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