DMG森精機社長が図る工作機械のソフトウェアデファインド化、MX実現への道のり:EMOハノーバー2025(2/2 ページ)
DMG森精機は欧州最大級の工作機械展示会「EMO Hannover 2025」において、同社が提唱するMX(マシニングトランスフォーメーション)を推進する数々のソリューションを展示した。同社 代表取締役社長 CEOの森雅彦氏にMXの現在地などを聞いた。
デジタルツインを商品開発やテスト加工に活用
MONOist 森氏としては、どんな技術に着目していますか。
森氏 AMR(自律型搬送ロボット)は積載重量500kgや1トン、2トンなどのモデルを展開しているが、展示会場のような狭い空間でも複数台が衝突せずに走り回るような制御ができるようになってきた。複数台の制御は、まだグローバルで十数社くらいにしか入っていないが、それぞれの現場で走行距離を伸ばし、ノウハウを蓄積している。
AM(アディティブマニュファクチャリング、積層造形)に関しても、従来MIM(金属射出成形)で作っていたような小さな部品なら、SLM(選択的レーザー溶融)方式のAMで作った方がコストが安く、設計の自由度も高いということが分かり、そういった従来工法とAMの使い分けの仕方が見えてきた。
また、研究論文などを読んでいると、デジタルツインにおけるシミュレーションは、ただ単にAI(人工知能)にデータを延々と学習させるのではなく、まずはシミュレーションのモデルをしっかりと作り込んで、それをベースにAIを活用すると非常に精度の高いシミュレーションができるという。この点にも、とても関心を持っている。
MONOist DMG森精機ではデジタルツインをどのように活用していますか。
森氏 製品開発にフル活用しているし、ユーザーから依頼されたワークのテスト加工にも活用している。ユーザーからワークの3Dモデルをもらい、シミュレーション上でいろいろ試した後で、実加工で確認する。表面粗度や加工時間は±10%くらいの精度でシミュレーションできている。実際の加工に費やしていた時間が減ることで、テスト加工の時間を短縮できる。
また、20年ほど前から工作機械のサービスレポートをデジタル化しており、それを活用して“社内検索エンジン”を作った。サービスエンジニアが修理のためにユーザーを訪れ、そこで機械のモデルや故障箇所などを入力すると、過去にあった同じような修理事例が出てきて参照できるようになっている。経験の浅いサービスエンジニアでも、迅速に作業できる。
MONOist 企業経営においては常に自身に言い聞かせてきたことは何でしょうか。
森氏 私は西大寺幼稚園で学び、中学、高校は東大寺学園で学んだ。今も京都の寺の檀家総代を務めている。僧侶が常々語っているのは、“寺を預かっている”という意識だ。
寺は僧侶のためではなく、信徒や社会そして次世代のために存在している。企業も利益を出すことは重要だが、一番はお客さま、そして社員や株主のためにある。
工作機械のビジネスは時間軸が長い。20〜30年使われる。今、購入していただいた機械が30年使われるとすると、私は今64歳だから30年後には94歳になっている。その時、私はもういないかもしれない。逆に今、修理されているような機械は、先代社長の時代や私が社長に就任したばかりの頃に購入してもらった機械ということになる。
もし、われわれが“そんな昔の機械は知りません。修理できません”といったら、ユーザーはすぐに離れてしまうだろう。
そういった意味では、私も社長として会社を“預かっている”という思いだ。だからこそ、自分の代で朽ち果てさせるわけにはいかない。しっかりと事業を拡大して、次の世代につなげていく必要がある。
MONOist 37歳から社長を務められていますが、若くして社長になるメリットとは。
森氏 本当は40代後半や50歳くらいで社長になり、そこから十数年務めるのが1番いいと思う。私はそれより早く社長になったが、最初の頃に私よりもっと優秀な人が社長をやっていたら、会社もさらに成長していたかもしれない。
ただ、自分の経験としては良かった。若いころから、同業者だけでなく、ユーザーやサプライヤー、金融機関などさまざまな企業のトップと接することができた。彼らから学んだことを、経営に生かすことができた。とても糧になったし、ありがたかった。
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