MLCC製造で生じる“産廃”が部品に、京セラグループが挑む「第2のリサイクルPET」:素材/化学インタビュー
積層セラミックチップコンデンサー(MLCC)の生産で使われる「C-PETフィルム」は、熱に強く伸びにくい特性から、これまでリサイクルが難しく、ほとんどが焼却や埋め立て処分されてきた。京セラドキュメントソリューションズは、このC-PETフィルムをアップサイクルする業界初の技術を確立。PETボトル由来より安価な「第2のリサイクルPET」として、その可能性を広げようとしている。
京セラドキュメントソリューションズは2024年10月に京セラが製造する積層セラミックチップコンデンサー(MLCC)の生産工程で使用したC-PETフィルム(熱に強く伸びにくいPETフィルム)を、複合機やプリンタ部品の材料へアップサイクルする技術を業界で初めて確立したと発表した。
京セラグループ内のサーキュラーエコノミー推進という使命のもと、使用済みPETフィルムの回収からペレット化を担当した、京セラドキュメントソリューションズ資材本部 第1資材部 機構部品調達課 課責任者の奥野洋介氏に、同技術の開発背景や今後の展開について聞いた。
セラミックスを機械的に剥ぎ落し、取り除く
MONOist C-PETフィルムのリサイクル技術の開発背景について教えてください
奥野氏 MLCCの生産工程では、C-PETフィルムにセラミック製の材料を塗ってその上に電極を印刷した後、そのセラミックシートをC-PETフィルムから剥離しながら1枚ずつ積層する。同工程では、セラミックシートの厚みがどんどん薄くなってきてセラミックシートだけではハンドリングが困難になるため、キャリアテープとしてC-PETフィルムを使用している。
この工程で使用したC-PETフィルムは、産業廃棄物として埋め立てや焼却処理によるサーマルリサイクル(熱回収)が行われている。サーマルリサイクルに伴い、年間約5500トン(t)のCO2が生じている。MLCCの生産量が増えるほど、C-PETフィルムの廃棄量も増えCO2排出量や処理費用も増大する。持続可能な事業拡大のために、C-PETフィルムのリサイクルにグループを挙げて取り組む必要があった。
MONOist C-PETフィルムのリサイクルの流れについて教えてください。
奥野氏: 同技術の手順は以下の通りだ。まず、MLCCの生産工程で利用したC-PETフィルムを回収する。次に、洗浄し、ペレット化した後、調合する。続いて、調合したペレットを成形して、京セラドキュメントソリューションズの複合機やプリンタの部材とする。ちなみに、私はこれらの工程の中でペレット化や調合による改質を担当している。
MONOist C-PETフィルムのリサイクルを進めるに当たってどのような課題に直面しましたか。
奥野氏 MLCCの生産工程で使用されたC-PETフィルムをアップサイクルするには、生産工程で付着したセラミックスを取り除くのが困難だった。薬液処理でセラミックを除去する方法もあるが、コストが高い。C-PETフィルムは固く伸びにくいため、部品として再利用することも難しかった。
MONOist これらの課題をどのように解決しましたか。
奥野氏 セラミックスの除去では、パートナー企業が開発した「機械的な方法で剥ぎ落し、取り除く」という手法を採用することで、薬液処理と比べ大幅なコスト削減に成功した。
加工性については、C-PETフィルムをペレット化や調合する際に、他のエンジニアリングプラスチック材料や改質剤と組み合わせることで、強度や柔軟性、難燃性といった特性を調整できるようにした他、複合機やプリンタ部品とするための成形条件も工夫した。
MONOist C-PETフィルムのリサイクルによって得られた成果を教えてください。
奥野氏 同技術を用いたリサイクルPETの製造コストはPETボトル由来のリサイクルPETより安価だ。さらに、京セラグループ内で一貫して管理された素材であるため、化学物質の管理基準を満たし、純度が高く品質が安定している。そのため、製品要求を満たした再生材として活用しやすい。
MONOist 今後の展開について教えてください。
同技術で得られたC-PETフィルムのペレットは現状、複合機やプリンタの内部構造部品の部材で利用されている。将来はトナーコンテナのボトルなどへの展開も予定している。なお、リサイクル素材の配合比率に関して、部品によって異なるが、複合機やプリンタの部材では全体の約40%、トナーコンテナでは約80%がこのリサイクル素材で構成されている。
加えて、アップサイクルしているC-PETフィルムは、MLCCの生産工程で使用した同フィルム全体の一部だ。同フィルムのアップサイクルの数を増やすために、さらに多くの部品への適用を目指す。
また、プラスチック材料メーカーと共同開発による多角化を図ることで、今回の技術の普及を推進する。そうすることで、業界全体のリサイクル率を高める。併せて、MLCCの生産工程で利用したC-PETフィルム由来のリサイクルPETを、使用済みPETボトル由来のリサイクルPETに代わる「第2のリサイクルPET素材」として確立していきたいと考えている。
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