材料劣化の初期兆候を可視化する新装置、卓上サイズで耐候性評価に貢献:研究開発の最前線
屋外で使用される材料の耐候性評価には、これまで多くの時間がかかっていた。そこで島津製作所は複合劣化促進ユニット「CDAS-1000」を開発した。既存の分析装置と組み合わせることで、短期間で劣化の初期兆候を可視化し、材料の寿命や耐久性、耐候性の評価に役立つ。
島津製作所は2025年9月18日、京都府内およびオンラインで記者会見を開き、材料の耐久性/寿命の予測を支援する複合劣化促進ユニット「CDAS-1000」を同日に発売すると発表した。希望販売価格は1100万円(税込み)で、目標販売台数としては1年間で20台としている。
劣化の初期兆候を迅速に検出する用途で貢献
屋外において使用される材料は、さまざまな環境の影響により時間の経過とともに劣化する。そのため、開発に当たっては耐候性を評価する必要性がある。材料の長期耐久性/寿命を予測する方法としては、屋外暴露試験と促進耐候性試験がある。
自然環境下で対象材料を劣化させる屋外暴露試験は、数年〜数十年の時間がかかる他、自然環境は季節や場所により異なり一定ではなく、正確な耐候性を測定しにくい。
耐候性試験機を用いて行う促進耐候性試験は、材料を加速劣化させ、品質の変化や寿命を予測する。一定の条件で試験が行えるが、数千時間の試験期間が必要だ。耐候性試験機は大型であるため実施場所に制約があり、材料劣化過程で生じるガスを捕集できないという課題もある。
そこで、島津製作所はCDAS-1000を開発した。CDAS-1000は、島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)やフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、ラマン分光度計、示差熱/熱重量(TG/DTA)同時測定装置、走査型プローブ顕微鏡(SPM)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間形質量分析計(MALDI-TOFMS)などと組み合わせて利用することで、材料の劣化評価が行える。
島津製作所 分析計測事業部 技術部 新事業開発推進グループ/医学博士の長谷川雪憲氏は「GC-MSやFT-IRでの材料の耐候性評価を効率化する世界初の前処理装置だ。装置の大きさは幅420×高さ655×奥行き634mmと小型で通常の実験室の作業台に設置できる」と強調する。
CDAS-1000の光源や加熱により材料を劣化させ、その過程で発生するガスの成分や材料の表面状況をGC-MSやFT-IRで調べて、劣化の指標となる成分を検出したり、劣化の仕組みの解明に有用な情報を獲得したりできるので、プラスチックなど新素材の研究開発を効率化する。
今回の製品は、サンプル保持部、照射部、光源、温調部で構成される。サンプル保持部は、サンプルを入れたバイアル用のラックで、バイアル中に飽和湿度で水を滴下することで湿度の負荷をかけられる。温調範囲は+15〜90℃となる。サンプルはサイズが幅10×厚み50×高さ3.0mmで水と固体に応じる。バイアルは石英ガラス製でヘッドスペース用のODタイプでサイズが22×75.5mm、20mLに対応する。
照射部/光源には、浜松ホトニクス製の「LIGHTNINGCURE」を採用しており、光源は紫外線(UV)タイプとキセノン(Xe)タイプから選べる。UVタイプは、入射光照度(365nm)が26mW/cm2(18mW/cm2)となっており、波長範囲は270〜450nmとなっている。Xeタイプは、入射光照度(365nm)が4mW/cm2(2.8mW/cm2)で、波長範囲は230〜800nmだ。照射部は、光源よりライトガイドを通して、劣化用光を試料に導入する。各試料位置における35×7mmの照射エリア内ではUV/Xe光が70〜76%の分布で均質化される。
長谷川氏は「当社では、CDAS-1000と各分析装置を組み合わせたものを『複合劣化促進解析システム』と呼称している。同システムは、短期間の劣化促進試験(アウトガスの捕集)で、劣化の初期の兆候を検出するのに役立つ」と話す。
複合劣化促進解析システムによる劣化評価の流れは以下の通りだ。まず試料を作製する。次に、CDAS-1000による加熱やUV/Xeの照射で劣化試験を行う。続いて、劣化過程で生じたガスをヘッドスペース(HS)-GC/MSで評価し、劣化指標化合物の探索を実施する。あるいは、FT-IRやMALDI-TOFMS、SPMで劣化後のフィルムの状況を評価する。
会場では同システムの活用事例としてポリスチレンの劣化評価が紹介された。水添加による加水分解の影響を評価するために、水添加/未添加のポリスチレンに対して、CDAS-1000により加熱温度40℃で各試料にUV/Xeを照射し、水の影響を評価した。劣化過程の発生ガスをHS-GC/MS「HS-20NX+GCMS-QP2050」で、劣化後の表面状態を減衰全反射(ATR)-FT-IR「IRSprit-X+QATR-S」で評価した。
HS-20NX+GCMS-QP2050による分析の結果、12時間にわたりXeを照射した水添加の試料で、Phenol、Benzoic acidなどの典型的な酸化生成物のピークが検出され、ポリスチレン骨格の熱酸化劣化により生成するAcetaldehyde、Acetic acid、Formic acidなども検出された。
IRSprit-X+QATR-Sによる分析の結果、各試料で水酸基、カルボニル基、エーテル基の増加が認められ、UX/Xeの照射により、酸化が起きている可能性があることが分かった。
加えて、ポリスチレンにUV照射(0、0.5、1、2、6、12時間)、Xe照射(0、3、6、12、72時間)した際の劣化発生ガスの面積値の変化も調べた。その結果、Acetophenone、Phenolは、UV/Xe照射時間が長くなると生成量が増加しており、また水添加の有無により生成量の差を確認できたため、ポリスチレンの劣化指標化合物として適用可能なことが判明した。
これらの結果により、UV照射では2時間、Xe照射では12時間という短時間の試験で劣化しやすさが評価できることが明らかになった。
今後同社は、樹脂系の新素材を開発するメーカーや研究機関などにはCDAS-1000を販売していく考えだ。また、CDAS-1000と促進耐候性試験の試験結果の相関性についても検証する。
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