脱炭素の救世主? バイオエタノールからプロピレンを生み出す触媒技術に迫る:材料技術(2/2 ページ)
化石燃料に依存するプロピレン製造は、大量のCO2排出が避けられず、脱炭素化の課題となっている。そんな中、三菱ケミカル発のスタートアップであるiPEACE223が、バイオエタノールを原料にプロピレンを連続生産する技術を開発した。同社が実証のために建設した「川崎ベンチプラント」の見学会をレポートし、この技術の仕組みと強みに迫る。
3つの強みとは?
今回の技術の強みは「低コストの設備」「低コストの原料」「触媒再生」の3点だ。「低コストの設備」に関して、同技術は、エタノールの脱水→プロピレンの製造→プロパンの生産といった各工程の化学反応で必要な圧力が0.2MPaのため、高圧ガス設備が必要ない。粗プロパンの液化後、気液分離でLPGを取得できる。
「低コストの原料」について、瀬戸山氏は、「ETP反応で生成される副生物(メタン、エタンなど)を水蒸気に改質することで、各工程で必要な水素を全て賄うことができるため、外部からの水素調達が不要だ」と話す。
「触媒再生」では、ETP反応装置の内部を450℃にし、多環芳香族アルキル体を水素化分解することにより、使用しているチャバサイト型ゼオライト触媒を再生する。
瀬戸山氏は、「反応を終えた触媒から析出したコーク(炭素質の堆積物)を、空気と水蒸気などの混合雰囲気下で燃焼/除去し触媒を再生する方法では、燃焼で発生する水蒸気により触媒が酸化や劣化する可能性がある。しかし、ETP反応装置を用いた水素化分解は水蒸気が発生しないためチャバサイト型ゼオライト触媒にダメージを与えずに再生できる。そのため、使用するチャバサイト型ゼオライト触媒は半永久的な寿命を持つ」と強調した。
iPEACE223では、今回の技術の実証試験や顧客へのサンプル提供を目的に、神奈川県川崎市に川崎ベンチプラントを建設し、2025年5月に稼働を開始した。同ベンチプラントは、主に1基のエタノール脱水装置、1基のETP反応装置、2基のETP反応管で構成されており、PC制御で各装置の単独運転と連続運転に対応している。2基のETP反応管を切り替えてETP反応装置とつなげるようにしているため、1基目がETP反応を行っている間に、2基目がチャバサイト型ゼオライト触媒の再生を行うなどの運用が可能だ。チャバサイト型ゼオライト触媒の再生中に生産停止とならないため、連続でエタノールからプロピレンを製造できる。
同ベンチプラントで生成したガスはガスクロマトグラフィーで分析し、評価している。ETP反応により生成したガスは昇圧装置を用いて、ボンベに充填(じゅうてん)/保管可能だ。同ベンチプラントのプロピレン生産規模は年間20トン(t)だ。ベンチプラントの基本設計はiPEACE223で行い、実際の装置設計/製造は広島が実施した。なお、利用しているゼオライト触媒は、三菱ケミカルに在籍していた時に瀬戸山氏が特許化したものだ。現在は日本化薬とゼオライト触媒の量産化を目指し、共同研究を行っている。
【訂正】初出時、使用するゼオライト触媒の開発者やベンチプラントの設計会社に誤りがありました。お詫びして訂正致します。(編集部/2025年9月11日 16時10分)
今後、iPEACE223は2028年に小型商用機を用いて年間2000tのプロピレンを生産する予定だ。この事業では、LPG事業会社とジョイントベンチャー(JV)を設立し、今回の技術のライセンスビジネスや使用するチャバサイト型ゼオライト触媒を販売する。想定顧客は産業用/家庭用の燃料企業などで、売上高は数千万円を見込んでいる。
2029年には大型商用機を用いて年間2万tのプロピレンを生産する予定だ。この事業では、化成品事業会社とJVを設立し、LPG事業会社と同様のビジネスを展開する。想定顧客は、化成品メーカーやLPGメーカーなどで、売上高は数百億円の見通しだ。
瀬戸山亨氏は、「初期段階ではバイオLPG(プロパン)の製造をターゲットとしている。これは国内での高い販売価格と、需要の安定性から経済性が高いと判断したためだ。将来は、大型商用プラントを海外に建設し、今回の技術を用いて、グリーン燃料である『e-fuel』や、高級ポリマーの原料となるメタクリル酸などを製造することも検討している」とコメントした。
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