脱炭素の救世主? バイオエタノールからプロピレンを生み出す触媒技術に迫る:材料技術(1/2 ページ)
化石燃料に依存するプロピレン製造は、大量のCO2排出が避けられず、脱炭素化の課題となっている。そんな中、三菱ケミカル発のスタートアップであるiPEACE223が、バイオエタノールを原料にプロピレンを連続生産する技術を開発した。同社が実証のために建設した「川崎ベンチプラント」の見学会をレポートし、この技術の仕組みと強みに迫る。
三菱ケミカルが開発したゼオライト触媒技術の実用化を担うスタートアップであるiPEACE223は2025年8月27日、神奈川県川崎市で、同技術などにより、バイオエタノールからプロピレンを連続生成する「川崎ベンチプラント」の見学会を開催した。
0.38nmの微細な穴を有すチャバサイト型ゼオライト触媒を活用
エチレンとプロピレンは化学産業で主たる原料として使われており、今後もこれらの市場は成長を続けていくとされている。しかし、化石資源由来の原料であるため、製造工程で大量のCO2が排出されることを避けられない。エチレンは、石油化学燃料(ナフサ)から製造するよりもCO2の排出量が少ないシェールガスを原料とした製造にシフトしている。しかしながら、プロピレンでは製造工程などで生じるCO2の排出量を減らす有望な技術が少ないのが現状だ。
また、日本の製造業において、化学産業から排出されるCO2は多量だ。そのため、カーボンニュートラルの実現に向けて、ナフサクラッカーから生産される基幹化学原料や化成品を、環境に優しい代替物に転換することが求められている。
こういった状況を踏まえてiPEACE223は、チャバサイト型ゼオライト触媒を用いて、バイオマス由来のバイオエタノールを原料にプロピレンを製造できる技術を開発した。
同技術の手順は以下の通りだ。まず、脱水装置によりバイオエタノールに脱水反応を起こさせ、エチレンと水に分離する。次に、チャバサイト型ゼオライト触媒を備えた「エチレン to プロピレン(ETP)反応」装置を用いてエチレンにETP反応を発生させ、プロピレンに転化する。続いて、プロピレンに水素を加えることにより、液化石油ガス(LPG)の1種で家庭用燃料「プロパンガス」の主原料であるプロパンも生産できる。
ETP反応は「反応誘導期」「選択的ETP反応期」といった2つのフェーズから成る。反応誘導期は、エチレンの低重合反応(オリゴマー化)と、逐次的な芳香族化反応が進行する。逐次反応により、細孔内にとどまる芳香族類と、細孔径外に拡散可能なプロパンが主生成物として確認できる。
選択的ETP反応期は、エチレンの逐次反応によって生成した多環芳香族類のアルキル化と脱アルキル化が同時に進行し、チャバサイト型ゼオライトの狭い8員環細孔を通過できる小さいオレフィンである、エチレンとプロピレンが細孔外に移動可能なため、高いプロピレン選択率が発現する。iPEACE223 代表取締役 最高技術責任者(CTO)の瀬戸山亨氏は、「使用しているチャバサイト型ゼオライト触媒は0.38nmの微細な穴を有しているのが特徴だ。この穴がエチレンとプロピレンのみを通過させ、高選択的にプロピレンを生成する」と説明した。
ETP反応により製造されたプロピレンは、ポリプロピレン(PP)やアクリル酸の原料になる。そのため、同技術のターゲットとしては、プロパンガスなどのLPG、PPを用いたプラスチック製品、おむつに大量の水分を吸収/保持する役割を備える高吸水性樹脂(SAP)の主な原料であるアクリル酸を想定している。
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