GoogleのAIデータセンターに核融合炉の電力を供給するCFSの戦略:材料技術
商用核融合炉の稼働を目指す米国の民間核融合エネルギー企業のCommonwealth Fusion Systems(CFS)が、東京都内で記者会見を開催。Googleに電力を供給する核融合炉や、複数の日本企業が参画したコンソーシアムとの連携について紹介した。
米国の民間核融合エネルギー企業であるCommonwealth Fusion Systems(CFS)は2025年9月3日、東京都内で記者会見を開き、会社の設立背景や現在の取り組み、今後の技術開発および事業展開の見通しについて発表した。
トカマク型核融合炉のデモ機は2年以内に稼働予定
CFSは、2018年に米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトして設立されたスタートアップ企業だ。約1000人の従業員が所属している同社は、トカマク型核融合炉の開発を推進している。トカマク型核融合炉は、複数の円形コイルを一周並べたタイプで、これらのコイルで燃料(水素の同位体である重水素とトリチウム)をプラズマとして閉じ込め、加熱して核融合反応を起こす。プラズマを完全に取り囲むセラミックの壁(ブランケット)内にはリチウム(Li)や溶解塩が充填(じゅうてん)されている。リチウムは、核融合反応で発生した高速中性子との核反応により燃料となるトリチウム(三重水素)を生産する。溶融塩は中性子を吸収して高温となり、その熱で水を沸騰させて蒸気を生成し、タービンを回して発電を行う。
同社は、これまでにさまざまな投資家から30億米ドル近くの民間資金を調達した他、商業利用可能なトカマク型核融合炉のデモ機「SPARC」の建設を65%完了させている。CFS CEO 兼 共同創設者のボブ・マムガード氏は、「SPARCは今後2年以内に稼働する予定で、100MWの熱出力を目標としている」と話す。
完成後にSPARCでは、核融合反応プロセスで必要なプラズマを維持するために投入したエネルギーよりも発生する熱出力が上回る状態(Q>1)、すなわち投入エネルギー以上のエネルギーを生み出す技術「net fusion energy(ネットフュージョンエネルギー)」の実証を行う。CFSは2027年までに、SPARCにおけるQ>1の実証を達成する予定だ。
併せて、2030年代初頭の建設を目指し、米国バージニア州で商用発電所モデルとなるトカマク型核融合炉「ARC」の建設計画も進めている。ARCは約400MWの電力を供給するプラントとなる。CFSの試算によれば、この電力は大規模な産業施設や約15万世帯分で使用する電力に相当する。「米国バージニア州のARCで発電した電力はGoogleのAI(人工知能)データセンターに供給される」(マムガード氏)。この他にも、複数のエリアでARCの建設を計画中だ。
2025年8月28日には、三井物産や三菱商事が主導するコンソーシアムなどからシリーズB2ラウンドで8億6300億米ドルの資金を調達するとともに、同コンソーシアムと連携し、核融合エネルギーの商業化を加速すると発表した。同コンソーシアムは、両社やCFSの他に、三井住友信託銀行、NTT、三井不動産、JERA、日本政策投資銀行、フジクラ、日揮、商船三井、三井住友銀行、関西電力が参画している。
発電所や大規模インフラの建設、金融、通信、データなど、多様な分野の専門知識を有すこれらの日本企業と協力することで、CFSは核融合発電所の建設に必要なグローバルなサプライチェーンの構築を目指す。
なお、フジクラは、SPARCで使われる超電導磁石の主要部品である高温超電導線材を供給している。
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