EVの常識を変えるか? 出光が挑む「柔らかい」全固体電池材料の強み:EV向け高機能材料インタビュー(3/3 ページ)
「充電が遅い」「走行距離が短い」「火災リスクがゼロではない」など、電気自動車(EV)の課題を一挙に解決すると期待される次世代バッテリー「全固体電池」。その実用化を阻む壁を、出光興産が開発した「柔らかい」固体電解質が打ち破ろうとしている。
硫化リチウムと硫化物系固体電解質を取り巻く3つの課題の解決策
MONOist 各課題の解決策について教えてください。
草場氏 「コスト」については、われわれとしても、量産技術の確立と並行してコストダウン検討に取り組む一方で、全固体電池という次世代電池を世に広めていくためには、メーカーの自助努力のみならず、国、消費者を含めた日本全体でこの課題に取り組む必要があると考えている。
千葉県内で既に稼働している2つの小型実証設備では、ラボスケールで開発した製法により年産10トン規模で安定して生産できるかを検証している。このプラントで生産された硫化物系固体電解質は、トヨタをはじめとするさまざまな自動車メーカーやバッテリーメーカーにサンプルとして供給され、性能検証が行われている。
小型実証設備で得られた知見を基に、2027年の完工を目指し、硫化物系固体電解質のパイロットプラントの基本設計を進めている。ここでは、より本格的な量産技術の確立を目標に掲げている。
硫化リチウムについても、年間1000トンを生産できるLi2S 大型装置の建設を進めている。これにより、サプライチェーン全体でのコストと品質を管理する。
「安全性」については、ただ安全性が高いだけでなく性能も優れた次世代の硫化物系固体電解質の開発スピードを加速させている。
「スケールアップの難しさ」でボトルネックになっているのが、粉体である硫化物系固体電解質の製造過程で発生する温度ムラや詰まりだ。これらを解決するため、、粉体である硫化物系固体電解質の製造過程で発生する温度ムラや詰まりといった課題を解決するため、流体/粉体の動きをコンピュータ上でシミュレーションする流動解析を活用している。これにより、設備設計の最適化や効率的な製造プロセスの構築を目指している。
また、全固体電池の実用化を加速させるため、トヨタと協業し共同研究を進めている。トヨタの求める厳しい品質基準に応えることで、硫化物系固体電解質の品質向上と安定生産技術に磨きをかけている。この協業は、出光興産が持つ材料開発の知見と、トヨタが持つ電池/EV開発の知見を組み合わせることで、全固体電池という新しい市場を創出することを目標に据えている。
MONOist 今後の展開について聞かせてください。
草場氏 トヨタと出光興産は共同で、2027〜2028年頃に全固体電池搭載EVの市場導入を目指しており、出光興産は材料面からこれを支える。トヨタの求める高品質な材料を安定的に供給することが、当面の最重要課題だ。
トヨタ自動車との協業を軸としつつも、将来的にはトヨタ以外の国内外の自動車メーカーや電池メーカーにも硫化物系固体電解質を販売する方針だ。全固体電池市場の拡大に合わせて、硫化物系固体電解質のサプライヤーとしての地位の確立を目指す。
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