EVの常識を変えるか? 出光が挑む「柔らかい」全固体電池材料の強み:EV向け高機能材料インタビュー(2/3 ページ)
「充電が遅い」「走行距離が短い」「火災リスクがゼロではない」など、電気自動車(EV)の課題を一挙に解決すると期待される次世代バッテリー「全固体電池」。その実用化を阻む壁を、出光興産が開発した「柔らかい」固体電解質が打ち破ろうとしている。
硫化物系固体電解質の特徴とは?
MONOist 生産する硫化物系固体電解質の特徴は何ですか?
草場氏 硫化リチウムの原料の1つである硫黄は、原油精製の脱硫工程で大量に発生する副産物であり、出光社内において安定的に調達できる。そのため、高価なレアメタルを使用する一部の電池と異なり、硫化物系全固体電池は資源調達の観点からもメリットがある。
出光興産では、製油所から得られる硫黄成分を原料として、硫化リチウムを製造し、硫化物系固体電解質を生産する体制を構築している。これにより、品質管理された製品の安定供給を実現し、顧客である自動車メーカーからの高い信頼につなげている。
電解液を固体電解質に置き換えることで、より高性能な正極材、負極材を利用できる可能性があるため、電池の高容量化にも貢献できる。これにより、EVの走行距離を延ばすことが可能になる。
さらに、「柔らかい」という性質も持っているため、電池の充放電に伴う体積変化が起こった際にも、電極と電解質の間に隙間(空隙)ができにくく、性能劣化を抑えられる。これは、全固体電池の実用化における主要な課題の1つを解決する大きな強みだ。
全固体電池は固体であるため、液系のリチウムイオン電池のように、電解液漏れによる発火リスクも少ない。
MONOist 硫化リチウムと硫化物系固体電解質の開発/製造の課題について教えてください。
草場氏 大きく分けて、「コスト」「安全性」「スケールアップの難しさ」の3つが挙げられる。
「コスト」は、EV向け全固体電池は国内で開発段階にあり、使用される材料も生産規模が小さく、コストが高くなりがちになる点だ。コストが高いと市場への普及が進まず、需要が伸びないため、さらなる量産化やコストダウンが難しい。
「安全性」は、硫化物系の材料が、水と反応して有毒な硫化水素ガスを発生させる可能性がある点だ。このため、製造プロセスや製品使用時において、厳格な安全対策を講じなければならない。
「スケールアップの難しさ」は、硫化リチウムや固体電解質はサブミクロンサイズの粉末であるため、大規模なプラントで均一に混ぜたり、輸送したりすることが困難で、パイプの詰まりや、加熱時の温度ムラなどが生じやすい点だ。
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