鉄鋼材料が使われる理由:鉄鋼材料の基礎知識(1)(3/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第1回は、鉄鋼材料が使われる理由について説明する。
鉄鋼材料が使われる理由
冒頭でも述べましたが、世の中にある金属製品の90%以上は、鉄鋼材料から作られています。この数字からも、鉄鋼材料がいかに重要な素材であるかが分かります。では、なぜこれほどまでに鉄鋼材料が使われているのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。詳しく見ていきましょう。
(1)鉄資源が豊富にあるから
鉄鋼材料の基となる鉄は、地球上に豊富に存在します。地球の重量の約3分の1は鉄の重量であり、地球は鉄の星なのです。特に地殻(地下約16km程度までの地球表層部)では、酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで4番目に多く存在します。そのため、人間は鉄を簡単に採掘することができます。
鉄は、自然中に「鉄鉱石」という形で存在します。これは、鉄と酸素が結合した状態にある鉱石です。この状態では素材として使用することができないため、鉄鉱石から鉄だけを取り出す必要があります。鉄鉱石をコークスなどの炭素源と一緒に燃焼させると、炭素源が鉄鉱石中の酸素を奪い、鉄を取り出すことができます。このような方法によって安価に大量生産できる金属は、鉄以外にありません。
(2)加工しやすいから
鉄は、融点以上に加熱すると溶け、冷やすと固まる性質を持っています。この性質を利用した加工法が「鋳造(ちゅうぞう)」であり、鋳造によって鉄を簡単に成形することができます。型(かた)を作り込んでおけば、複雑な形状の鉄製品を作ることができます。型をたくさん用意すれば、鉄製品の大量生産も可能です。
さらに鉄は、固体の状態での加工も簡単です。工具を用いて鉄鋼材料を削り込んでいく「切削加工」は、モノづくりを行う企業で日常的に実施されています。ハンマーやプレスを用いて鉄を変形させる「鍛造」は、鉄を成形すると同時に、鉄を強靭な性質に変えることができます。このように鉄は加工が簡単な素材であり、加工によって目的の形状を有する鉄製品を作ることができます。
(3)多用途に性質を変えられるから
鉄は、成分や熱処理加工によって性質が大きく変わります。主力の鉄鋼材料である鋼は、基本的に炭素の含有量によって硬さや強度を調整しています。鋼中の炭素を増やすと硬さが増し、強度もアップするという具合です。さらに“焼入れ/焼戻し”と呼ばれる熱処理を施すと、より強度が増し、同時に粘り強さを付与することができます。これにより、強度の単位であるMPa(メガパスカル)で言うと200M〜4000MPaという広い範囲の強度を鉄鋼材料でカバーすることができます。アルミ材料の強度範囲は50M〜1000MPa程度なので、その差は歴然です。
鉄は、合金元素の添加による効果も絶大です。例えば、ニッケルを添加すると、低温での脆さが改善され、極寒の寒冷地でも安心して鉄を使用することができます。クロムは高温での強度低下も改善してくれるため、ボイラや蒸気タービンなどの高温用材料に添加されています。クロムは耐食性を向上させる効果もあるため、クロムを10.5%以上添加して作られる「ステンレス鋼」はサビに強い材料です。ステンレス鋼は調理器具、自動車用部品、医療機器、海洋設備など、幅広い用途に使われています。これほど多用途に性質を変えられる材料は、鉄鋼材料以外にありません。
(4)何度でもリサイクル可能だから
鉄は、リサイクル性に優れた素材です。社会で役目を終えた鉄は、溶かし直すことで何度でも新しい素材に蘇(よみがえ)らせることができます。鉄は溶かし直しても、品質がほとんど低下しません。そのため、現代社会では多くの鉄がリサイクルされ、新しい製品に生まれ変わっています。そのリサイクル率は、90%を超えます。構造材として優れた機能を発揮するだけでなく、再生可能でエコな鉄はまさしく素材の王様と言えます。
まとめ
以上のように、鉄鋼材料は他の素材には無い優れたメリットを多く有しています。そのため、今日までモノづくりの場面において広く利用されてきました。鉄鋼材料の重要性をご理解いただけたのではないでしょうか。(次回へ続く)
筆者紹介
ひろ/ものづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「ものづくりの解説書」では、ものづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
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