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鉄鋼材料が使われる理由鉄鋼材料の基礎知識(1)(2/3 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第1回は、鉄鋼材料が使われる理由について説明する。

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人類の歴史は鉄とともにあり

 鉄は、人類が生活の利便性を手に入れるために古くから利用されてきました。その歴史は、古代にまで遡(さかのぼ)ります。ここでは、人類が鉄とどう関わってきたかを見てみましょう。

 人類が鉄を本格的に利用し始めたのは、紀元前1500年頃であるといわれています。現在のトルコの辺りで高度な文明を開いたヒッタイト人が、鉄鉱石や砂鉄から鉄を取り出す技術を発明したのです。これがいわゆる「製鉄」と呼ばれる技術であり、現代の製鉄法の基となっている技術です。人類はこの製鉄技術によって得られた鉄を叩(たた)いて加工し、武器や農具などを作りました。それまでも青銅(銅とスズの合金)で作った農具がありましたが、青銅よりもはるかに耐久性が高い鉄製の農具は農地の開拓を可能とし、農作物の生産性を高めました。これによって人類は、豊かな生活を手に入れられるようになったのです。

図3 人類と鉄利用の歴史
図3 人類と鉄利用の歴史[クリックで拡大]

 そんな古代から中世までは、鉄は権力の象徴でもありました。しばしば国家どうしの権力争いのために戦が行われ、鉄製の武器を多く持った勢力が勝利を収めていたからです。鉄で作られた剣、やり、おのなどの武器は強度があり、戦の場で大きな力を発揮しました。時代とともに人々はより強力な武器を求めるようになり、製鉄技術や鉄を強化する技術を発達させていきました。原料から純度の高い鉄を取り出し、成分を調整して鋼にし、熱処理を施すことで耐久性がある武器を生み出しました。日本でも「たたら製鉄」と呼ばれる独自の製鉄技術を発達させ、玉鋼(たまはがね)と呼ばれる純度の高い鉄を取り出して鍛錬し、非常に強靭性が高い日本刀を作り出しました。彼らが培ってきたこれらの技術は、現代の機械部品づくりに欠かせない「特殊鋼(とくしゅこう)」につながっています。

 18世紀に入ると、いわゆる「産業革命」が起こって急速に鉄の使用量が増えます。石炭の普及により、鉄を大量生産できるようになったのです。これによって鉄道や鉄橋、鉄を用いた建築物などが構築され、一気に近代化が進みました。機関車や大型の蒸気船が製造されたおかげで人々は容易に遠方に移動できるようになり、物流が発達していきました。

 そして現在、私たちは鉄に囲まれながら暮らしています。家の中には鉄製の調理器具、家電、家具などがあり、街を見渡せば鉄製のガードレール、信号機、電波塔、高層ビルなどがあります。工場には鉄を材料に用いた機械が多く並び、製品の生産を助けています。普段見ることがない発電所や化学プラントなどの設備も、鉄が大きなウェイトを占めています。多くの人が利用するバスや自動車は、全体が鉄で覆われた、まさしく“走る鉄”です。ボディーを頑丈な鉄で覆うことで、搭乗者を衝突事故から保護しています。それを動かしているエンジンや駆動部なども、もちろん鉄でできています。

図4 鉄が使われているもの
図4 鉄が使われているもの[クリックで拡大]

 このように鉄は古くから利用され、人々の生活を豊かにしてきました。文明の転換点にはいつも鉄があり、鉄が社会構造の変化をもたらしています。おそらくこの先も鉄は利用され、産業の中心的な素材であり続けると思われます。実際、これから普及するであろう水素利用や洋上風力発電には鉄の利用が欠かせません。まさしく人類の歴史は、鉄とともにあります。

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