鉄鋼材料が使われる理由:鉄鋼材料の基礎知識(1)(1/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第1回は、鉄鋼材料が使われる理由について説明する。
本連載は、“鉄鋼材料”について一からトコトン解説する連載です。タイトルを見て、「え、今どき鉄鋼材料?」と思った方がいらっしゃるかもしれません。なぜか鉄鋼材料は、古い材料だの、時代遅れの材料だのと思われがちです。ありふれた材料なだけに、どれも同じで、進化のない材料だと思われているのでしょう。鉄鋼材料は、本当にどれも同じで進化のない材料なのでしょうか。
そんなことはありません。魅力的な性質を持つ鉄鋼材料はたくさんあります。そして、今なお進化を続けている最先端の材料です。あまり話題に上がらないだけで、今もすごい鉄鋼材料がたくさん開発されています。最近、日本の大手鉄鋼メーカーが米国の老舗鉄鋼メーカーを約2兆円で買収したというニュースが話題になりましたよね。このニュースは、鉄鋼材料が決して時代遅れの材料ではないということを示しています。実際、世の中にある金属製品の90%以上は鉄鋼材料から作られています。今日の豊かで暮らしやすい社会は、鉄鋼材料があるおかげなのです。
そもそも、鉄鋼材料がどのような材料なのかを知らない方もいるでしょう。仕事で鉄鋼材料を扱っているのに、鉄鋼材料のことをちゃんと勉強したことがないという方もいませんか? 本連載は、鉄鋼材料の知識を深める良い機会となるはずです。そして、鉄鋼材料の素晴らしさや魅力にも気付いていただけるでしょう。ぜひ本連載をお読みいただければと思います。
鉄鋼材料とは?
鉄鋼材料とは、“鉄を主成分とする金属材料の総称”のことです。実は、私たちが普段「鉄」として認識している材料は、そのほとんどは鉄を主成分とする金属材料です。ただの鉄ということではありません。鉄鋼材料には、さまざまな種類があります。代表的なものは「鋼(はがね)」です。鋼は炭素とその他の成分を含有する鉄であり、「鉄鋼材料と言えば鋼!」といわれるほど代表的な鉄鋼材料です。その他には「純鉄(じゅんてつ)」や「鋳鉄(ちゅうてつ)」があります。これらを全てひっくるめて呼んだものが「鉄鋼材料」です。
ところで「鉄」と聞くと、頭の中では「硬い金属」や、「ずっしりと重たい金属」などを想像するのではないでしょうか。そう、木材やプラスチックなどの素材とは異なり、鉄は人の力では簡単に変形させることができない頑丈な金属です。鉄の頑丈さは、「鉄」という漢字が入った名前のものを見てみるとよく分かります。例えば「鉄道(てつどう)」「鉄板(てっぱん)」「鉄塔(てっとう)」など。これらはどれも鉄でできているわけですが、どれも頑丈な作りをしていますよね。
しかし鉄鋼材料は、「頑丈」の一言で終わらせるにはもったいないほど多くの優れた特性を持っています。先ほども述べたように、鉄鋼材料は「鉄を主成分とする金属材料の総称」です。つまり、鉄に何らかの成分が加わってできたものが鉄鋼材料であり、鉄単体ではありえない特性を多く発揮します。
一般的な鉄鋼材料は、5〜10種類程度の成分を含有しています。ここでいう成分とは、周期表に載っている元素のことを指します。具体的には、主成分である鉄(Fe)に加えて、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が基本成分になっており、特殊なものではニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)などを含有することもあります。これらの成分が鉄鋼材料をさらに硬くしたり、強度を高めたりしています。特に鋼は、強度と粘り強さのバランスがよく、構造用に最適な材料です。また、鉄は熱やサビに対して弱いですが、鋼の中には高温環境でも強度が落ちないものや、全くサビないものもあります。
このように、鉄鋼材料は鉄を主成分とし、さまざまな成分を含有する金属材料です。鉄鋼材料はただ頑丈なだけでなく、多くの優れた特性を有します。その優れた特性が構造用材料や機能性材料として働き、モノづくりをサポートしています。
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