そもそも鉄ってどんな金属?:鉄鋼材料の基礎知識(2)(1/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第2回は、鉄の基本的な性質について説明する。
連載第1回では、モノづくりで鉄鋼材料が使われている理由を説明しました。その理由として、鉄鋼材料は加工しやすいことや、さまざまな用途に合わせて性質を変えられることなどを挙げました。成分や熱処理によって軟らかくもなり、硬くもなる。強靭性、耐熱性、耐食性などの機能性も発現する。このような鉄鋼材料の多彩な特性が、幅広い用途への適用を可能にしています。そんな鉄鋼材料の基となっている「鉄」は、そもそもどのような性質をもつ金属なのでしょうか。今回は、鉄の基本的な性質について説明します。
鉄の性質
図1に鉄の基本データを示します。ご存じの通り、鉄は周期表に載っている元素です。具体的には、周期表の第8族、第4周期に鉄が登場します。元素記号は「Fe」で、原子番号は26です。チタン(Ti)やコバルト(Co)などの元素と同じ遷移金属に分類され、常温常圧下では固体の状態で存在します。外見は銀白色で、金属光沢があります。融点は1535℃と、非常に高いです。そして硬く、重たい物質であることは言うまでもありません。
前回もお話ししましたが、鉄は地球上に豊富に存在する元素です。地球の重量の約3分の1を鉄の重量が占めており、地殻では酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで多く存在します。そのため、人類は鉄を簡単に入手することができます。鉄は人間の体内にも存在します。鉄はヘモグロビンの材料となって血液中を流れ、肺から取り入れた酸素を全身に運搬する役割を担っています。人間が活動する上で、鉄は必要不可欠な栄養素となっています。このようなことから、鉄は人間にとって、最も身近な金属と言えます。
ここからは、他の主要な金属と比べながら鉄の性質について見ていきましょう。
鉄の密度
鉄の密度、つまり単位体積当たりの質量は、7.874g/cm3です。アルミニウムの密度が2.699g/cm3であるため、鉄はアルミニウムの約3倍の密度があります。銅の密度が8.916g/3であるため、鉄は銅よりもやや密度が小さいです(いずれも20℃のとき)。つまり、鉄はアルミニウムの約3倍重く、銅よりやや軽い金属となります。
鉄の剛性
剛性とは、材料に曲げやねじりの力を加えたときの変形のしにくさのことです。材料の剛性を示す指標であるヤング率を見ると、鉄は205GPaです。アルミニウムは69GPaであり、鉄の約3分の1です。銅は117GPaであり、鉄の約2分の1です[参考文献2]。つまり、厚みを同じにして同じ力で曲げたとき、鉄の変形量は銅の約2分の1、アルミニウムの約3分の1となります。
鉄の強度
材料の強度を示す指標である引張(ひっぱり)強さを見ると、鉄は196MPaです。アルミニウムは55MPaであり、鉄の約4分の1しかありません。銅は195MPaであり、鉄とあまり変わりません。その他の金属では、チタンが320MPa、ニッケルが335MPaとなっています[参考文献2]。このことから、鉄はとりわけ高強度な金属ではないことが分かります。しかし、実用的な鉄材料の引張強さは、合金元素の添加や熱処理により、400MPaを超えるものがほとんどです。
鉄の熱伝導性
材料中の熱の伝わりやすさを示す指標である熱伝導率を見ると、鉄は83.5W/(m・K)です。アルミニウムは236W/(m・K)であり、鉄の約3倍の熱伝導率があります。銅は403W/(m・K)であり、鉄の約5倍の熱伝導率があります(いずれも0℃のとき)[参考文献1]。つまり、鉄は比較的熱が伝わりにくく、そして熱が逃げにくい金属となります。鉄製のフライパンが下からの熱を全体に均一に伝えることができ、保温性に優れる理由はそこにあります。
鉄の熱膨張性
一般的に、金属は温度の上昇に伴って膨張し、長さと体積が増加します。単位温度当たりの伸びを表す線膨張係数を見ると、鉄は13.8×10-6/Kです。アルミニウムは23.7×10-6/Kであり、鉄の約1.7倍の線膨張係数があります。銅は16.2×10-6/Kであり、鉄の約1.2倍の線膨張係数があります(いずれも室温付近のとき)[参考文献3]。つまり、鉄は比較的熱膨張しにくい金属となります。
ただし、鉄はユニークな熱膨張特性をもっています。図3に示すように、鉄は温度の上昇とともに膨張していきますが、911℃に達すると急激な収縮を起こします。その後また膨張を再開しますが、1392℃に達すると、今度は急激な膨張を起こします。この現象は、温度上昇中に生じる鉄の結晶構造の変化が関係しています。これについては、後ほど詳しく説明します。
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