宇宙飛行士の睡眠不足を解消! 日本の技術が詰まった「香るアイマスク」がISSへ:材料技術
宇宙という極限環境で、快適な睡眠をとることは難しいという。そんな宇宙飛行士たちの悩みを解決するかもしれない製品が誕生した。それは日本の3社が協力して開発した「香るカプセル」を搭載したアイマスクで、国際宇宙ステーション(ISS)に届けられる。
三生医薬は2025年8月19日、シームレスカプセルを組み込んだアイマスク製品が、国際宇宙ステーション(ISS)の搭載品に決定したと発表した。同製品をISSの搭載品とするために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「きぼう」有償利用制度を用いた。早ければ2025年夏頃にもISSの日本実験棟「きぼう」にて日本人クルーが同製品を使用する予定だ。
シームレスカプセルとは、液体が界面張力によって球形になる性質を利用して製造されたもので、油性の液体をゼラチンや寒天などから成る皮膜で密封できる。サプリメントなどで広く用いられるソフトカプセルは、皮膜を接着して作られており、その継ぎ目(シーム)を有するのに対して、これを持たないため「シームレス(継ぎ目なし)」と呼ばれる。
精油という揮発性成分を宇宙空間で使用するために多様な検討を実施
今回のプロジェクトは、「宇宙と地上、双方の暮らしをより良くする」ことを目的とした新たな事業創出を促進する「Think Space Life アクセラレータ・プログラム2021」を通じて、ニトリ、IRiS Tokyo、三生医薬の3社が連携し実現した。
3社は、宇宙飛行士が長期滞在中に直面する「睡眠」「リラックス」「匂い」などの課題に着目し、「香りとぬくもりで整える」という新しい入眠体験を宇宙空間で提供するために、各社の技術と知見を結集し、「香るカプセル」を組み込んだアイマスク製品を開発した。
同製品で使用される「香るカプセル」は、IRiS Tokyoが設計した天然精油ブレンドを、三生医薬が開発した高密封シームレスカプセルに封入したものだ。このカプセルはフェルト部材に組み込まれ、香りの鮮度を長期間保てる他、使用者が好きなタイミングでカプセルを指でつぶすだけで、森林浴を想起させる香りが広がる。
さらに、ニトリの吸湿発熱素材「N-ウォーム」を用いたアイマスクに搭載することで、香りとぬくもりが調和し、心地よい入眠体験を提供できる。
宇宙空間で使用される製品には、地上の製品と比べて高い安全性、安定性、耐久性が求められる。今回の製品開発では、精油という揮発性成分を含む液体を安全かつ確実に使用できる構造を実現するために、素材選定、製剤設計、構造検証など、あらゆる側面から検討を重ね、搭載に必要な安全審査が行われた。
その結果、JAXAのきぼう有償利用制度で初めて「精油を封入したカプセルによる香りの提供」という仕組みが、宇宙で使用されることになる。
今回の取り組みは、三生医薬がこれまで健康食品/サプリメントのOEMで培ってきた製剤技術を、宇宙という極限環境で応用する初の試みでもある。同社では、宇宙ミッションの経験を基に、香るカプセルの設計/製造ノウハウに磨きをかけるとともに、「香り」「リラックス」などをテーマとした地上向け製品への応用展開も進めていく。今回のアイマスクの市販化も検討中であり、販売パートナー企業を募集している。
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