宇宙で充放電可能な全固体電池! 過酷な環境に対応し容量維持率も地上と同じ:ものづくり ワールド[東京]2025
カナデビアは、「第37回 ものづくり ワールド[東京]」で、電解液未使用の全固体リチウムイオン電池「AS-LiB」や全固体電池軌道上実証装置「Spce AS-Lib」を披露した。
カナデビアは、「第37回 ものづくり ワールド[東京]」(会期:2025年7月9〜11日/会場:幕張メッセ)の構成展の1つである「第7回 計測・検査・センサー展[東京]」に出展し、電解液未使用の全固体リチウムイオン電池「AS-LiB」や全固体リチウムイオン電池軌道上実証装置「Spce AS-Lib」を披露した。
宇宙実証後の容量維持率は96.8%で地上の評価実績と同等
AS-LiBは、固体電解質を使用しているため、低温で電解質が凝固することなく、−40℃の低温環境下でも動作する。高温でも固体電解質が分解しないため、通常の電解液系リチウムイオン電池が動作困難な+120℃でも充放電できる。同社独自の乾式製法プロセスにより、揮発成分を極小化した電池構成も実現し、1.0×1.0-2Paという真空環境下でも大きく膨張することがなく安定した動作をする。液体の材料を使用していないため液漏れもしない。従来のリチウムイオン電池に使用されている液体の電解質は可燃性だが、固体電解質は難燃性のため安全だ。
会場では、容量が55mAHのタイプ(開発品)、140mAhのタイプ、厚み12mmで1000mAhのタイプ、厚み8mmで1000mAhのタイプ、厚み3mmで1000mAhのタイプ(開発品)、5000mAhのタイプ(参考出展)が展示された。

左から、AS-LiBの容量が55mAHのタイプ(開発品)、140mAhのタイプ、厚み12mmで1000mAhのタイプ、厚み8mmで1000mAhのタイプ、厚み3mmで1000mAhのタイプ(開発品)、5000mAhのタイプ(参考出展)[クリックで拡大]
カナデビアは、AS-LiBの宇宙機への適用を目指し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で研究開発を行ってきた。2022年2月には、国際宇宙ステーション(ISS)に向けて、AS-LiBを搭載したSpce AS-Libを打ち上げた。搭載されたAS-LiBは、サイズが65×52×2.7mm、重さが25g、容量が140mhAで、15セル並列接続により約2.1Ahの電源として使用した。その後、「世界で初めて」(同社)宇宙環境でAS-LiBの充放電が可能なことを確認するとともに、1年以上にわたる長期の充放電サイクル運用を達成した。
カナデビアの説明員は「Spce AS-Libを用いたAS-LiBの宇宙実証では、562回の充放電サイクル試験を実施したが、充放電特性や電池外観に顕著な劣化は見られなかった」と話す。
2023年12月には、Spce AS-Libが宇宙から地球に帰還し、現在は同社の築港工場(大阪市大正区)で解体分析調査を行っている。「宇宙実証後の容量維持率は96.8%で地上の評価実績と同等で、長期間の繰り返し使用を見込める結果が得られた」(カナデビアの説明員)。
現状、AS-LiBはサンプルワークの段階だ。今後は、安全性が高く、真空中や高低温などの特殊な環境で使える特徴を生かし、航空宇宙機器や半導体製造装置などの産業機械、医療機器などを対象に展開していく。
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