宇宙線による電子機器の誤動作を減らす半導体封止材 ISSで評価実験:材料技術
レゾナックは、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線「宇宙線」に起因する電子機器の誤動作を低減する半導体封止材の評価実験を、2025年秋をめどに国際宇宙ステーション(ISS)で開始する。
レゾナックは2025年6月19日、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線「宇宙線」に起因する電子機器の誤動作(ソフトエラー)を低減する半導体封止材の評価実験を、同年秋をめどに国際宇宙ステーション(ISS)で開始すると発表した。
地上実験ではソフトエラー率を約20%低減
内閣府によれば人工衛星の打ち上げは過去10年で約11倍に増加し、今後も拡大する見込みだ。人工衛星には、地球観測や通信など、大量のデータ処理を行うため半導体(プロセッサ)が搭載されているが、宇宙向けプロセッサは、安定性を重視し、地上で使われるプロセッサよりも演算能力が低い傾向にある。
一方で、画像処理で着陸地点を自ら探索した小型月着陸実証機「SLIM」のように、人工衛星が自律的に判断できるようにする動きや、「スターリンク」のように、通信遅延最小化のために低軌道衛星間をリンクさせる取り組み、衛星上にデータセンター機能を備えるなどの流れがあり、プロセッサの演算能力向上のニーズが高まっている。
こういった中、宇宙向けプロセッサの演算能力向上では、宇宙線に起因するソフトエラーが課題の1つとなっている。
この課題に対しレゾナックは、宇宙線に含まれ、ソフトエラーを引き起こす中性子(陽子とともに原子核を構成する無電荷粒子)を吸収する材料を配合した半導体封止材を試作した。
地上で同材料の評価実験を行った結果、最も基本的な回路(フリップフロップ回路)において、ソフトエラー率を約20%低減できた。さらに実験を進めるため、レゾナックは、この封止材を使用した半導体チップをISSへ輸送し、船内外の材料暴露実験装置(MISSE)にて半導体を動作させた状態でソフトエラー低減効果を評価することにした。
この実験や打ち上げは、米民間宇宙企業であるAxiom Spaceに委託している他、レゾナックは2025年4月に評価用半導体チップを搭載した動作評価装置をMISSEに設置した。同装置は、2025年秋に打ち上げられ、ISSでの評価が開始される予定だ。
地上試験では再現できない宇宙空間の放射線スペクトルの影響を検証し、宇宙向け半導体材料に求められる特性を特定するとともに、高性能な半導体材料開発において重要なデータを取得することを目指す。
レゾナックは同実験において、この封止材のソフトエラー低減効果が確認されれば、地上で使われている半導体チップをほぼそのまま宇宙向けとして適用でき、宇宙向け半導体の製造コスト削減、機能向上に寄与できると想定している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
レゾナックが素材で挑む月面開発、寒すぎる月の夜に電力を確保するシステムとは?
近年、イーロン・マスク氏が率いる米国のスペースXや国内のispaceなどにより月面の開発が注目を集めている。そこで、月の砂であるレゴリスを蓄熱体として利用する「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」の開発を進めているレゾナックに話を聞いた。月の砂を用いた蓄熱システムの開発体制と特徴を担当者が語る
「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」において、レゾナック 計算情報科学研究センターMI基盤開発グループプロフェッショナルの清水陽平氏が「レゾナックが素材で挑む月面開発」と題して行った講演から抜粋して紹介する。レゾナックの最注力は半導体の後工程材料、6G向け半導体の新材料も開発
レゾナック・ホールディングスは「レゾナック株式会社」を発足した。レゾナックでは、昭和電工と日立化成の技術を組み合わせて、世界トップクラスの機能性化学メーカーになることを目指している。レゾナックが共創型人材の育成法を解説
レゾナックと揚羽は、「『共創型人材創出企業』を目指してCHRO組織としての取り組みとこれから」と題したセミナーで、レゾナックの人事の取り組みや揚羽のインターナルブランディングを紹介した。レゾナックが石油化学事業のパーシャルスピンオフを検討、上場も視野に
レゾナック・ホールディングスは、東京都内とオンラインで記者会見を開き、連結子会社であるレゾナックの石油化学事業についてパーシャルスピンオフの検討を開始したと発表した。