鉄を使用したチタン再生技術:スポンジチタン廃材の再生技術(2)(3/3 ページ)
本連載では、大阪大学 接合科学研究所 教授の近藤勝義氏の研究グループが開発を進める「スポンジチタン廃材の再生技術」を紹介。第2回では、鉄を使用したチタン再生技術について解説する。
粉末冶金法で作製したTi-Fe焼結材の利点
本研究では、Ti-Fe合金の作製に際して、主成分のTi粉末にFe粒子を添加した混合粉末を準備し、固相焼結法と熱間塑性加工法によって緻密なチタン合金を作製した[参考文献4]。
具体的には、工業用純Ti粉末(平均粒径29.3μm)に純Fe粒子(同4.5μm)を配合(Fe添加量:1〜6wt.%)した。これらの混合粉末に対して1100℃での固相焼結と1000℃での均質化熱処理を施してTi-Fe焼結材を準備。さらに、焼結体を完全に緻密化するため、熱間押出加工(温度950℃、押出比18.5)を付与してTi-Fe粉末合金を作製した。
まず、Fe成分の完全固溶とそれに伴うβ相の生成を検証すべく、XRDによる構造解析を行った(図5(a))。全ての試料において、回折角2θ=44.8度付近のFeの回折ピークは検出されず、添加したFe成分は完全に固溶した。また2θ=39.5度にβ-Ti相のピークが検出されており、前述したレーザ照射実験におけるβ相の生成挙動と一致している。さらにβ-Ti相のピーク強度比は、Fe添加量の増加に伴って増大しており、この傾向は図5の(b)に示すSEM-EDSによる組織解析結果におけるβ-Ti相(灰色部)の面積率の増加とも一致している。
本実験で作製した試料では、高濃度の鉄成分を含むものの、Fe原子は濃化することなく、β相内に固溶した状態を維持した。950℃での押出加工後のTi-Fe合金は、直径5mm程度の棒状素材であり、加工後は直ちに大気に曝(さら)される。その際、素材の比表面積が大きいため、β相温度域からの空冷過程では比較的大きな冷却速度を伴う。その結果、固溶したFe原子の拡散が抑制されてβ相が生成した。
次に、作製したそれぞれのTi-Fe焼結押出材を対象に、常温において引張試験を行った(図6)。Fe含有量の増加につれて、耐力と引張強さが顕著に増大する傾向を示した。例えば、耐力値に着目すると、Fe成分を含まない純Ti材では425MPaであるのに対して、Ti-6%Fe合金では1138MPaと約2.7倍に増加した。
また、いずれの試料においても破断伸び値は20%を超えており、純Ti材と同程度の優れた延性を有した。前記の既往研究[参考文献3]で紹介したように、Ti-5%Fe鋳造材における脆性破壊と比較すると、粉末冶金法で作製したTi-Fe焼結材では、高強度と優れた延性を兼ね備えており、加工熱処理条件を適正化することでこれまで厄介者とされてきた鉄不純物を有効な添加元素として活用できることを明らかにした。
筆者紹介
大阪大学 副学長(経営企画担当) 接合科学研究所 複合化機構学分野 教授 近藤勝義(こんどうかつよし)
大阪大学接合科学研究所にて、チタンやアルミニウムなど軽金属を対象に、原子スケールからマイクロレベルでの組織構造制御を通じて、従来は相反関係にあった強度と延性の高次元での両立を可能とする合金/プロセス設計原理や、不純物成分を利用した廃材の高度試験循環プロセスなどの構築を進めている。他方、もみ殻などの農業廃棄物からの高性能素材とエネルギーの同時抽出技術に係る実用化研究にも取り組んでいる。粉体粉末冶金協会副会長や国内外の多数の学術論文誌の編集員を歴任。
参考文献:
[1]岡部徹:電気と技術の塊:金属チタンの製造法,電学誌,Vol. 126, No. 12, p. 801-805(2006).
[2]新家光雄,池田勝彦,成島尚之,中野貴由,細田秀樹:チタンの基礎と応用,内田老鶴圃(2023).
[3]竹元嘉利,越智昌宏,瀬沼武秀,高田潤,清水一郎,松木一弘:Ti-Fe合金の微細組織と機械特性に及ぼすAl添加の影響,日本金属学会誌,Vol. 76,No. 5,p.332-337 (2012).
[4]J. Umeda, T. Tanaka, T. Teramae, S. Kariya, J. Fujita, H. Nishikawa, Y. Shibutani, J. Shen, K. Kondoh: Microstructures analysis and quantitative strengthening evaluation of powder metallurgy Ti-Fe binary extruded alloys with(α+β)-dual-phase, Materials Science and Engineering: A, Vol. 803, 140708(2021).
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