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鉄を使用したチタン再生技術スポンジチタン廃材の再生技術(2)(2/3 ページ)

本連載では、大阪大学 接合科学研究所 教授の近藤勝義氏の研究グループが開発を進める「スポンジチタン廃材の再生技術」を紹介。第2回では、鉄を使用したチタン再生技術について解説する。

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溶解鋳造法の濃化/偏析挙動を解消する方法とは?

 一般に溶解鋳造法では、時間をかけて凝固冷却過程が進行する。そのため、Ti結晶内での添加元素の固溶限や拡散速度などの違いにより素地中に均一に固溶することなく、粒界付近に濃化/偏析、あるいはTi-Fe計算平衡状態図(図3)に示すように脆い化合物相を生成してチタン材の延性が低下する。ここで対象とする工程内スポンジ廃材に含まれる鉄不純物に関しても同様に、900℃付近(β相温度域)での長時間の還元工程で容器から鉄成分がTi素地中に拡散し、その後のβ→α相変態を伴う徐冷過程において旧β結晶粒内にFe成分が濃化する。

図3 Ti-Fe2元系計算平衡状態図
図3 Ti-Fe2元系計算平衡状態図[参考文献3][クリックで拡大]

 そこで本研究では、このような濃化/偏析挙動を解消する方法として、比較的早い速度で相変態温度域を通過することで鉄原子の拡散現象を抑え、その濃化領域の低減/解消が期待できると考えた。この考えを検証すべく、鉄を含むスポンジ廃材試料の表面にレーザ(入熱量:136J/mm3、レーザ出力:160W、走査速度:535mm/s)を局所的に短時間(約5秒)照射し、急速に溶融/凝固して得られる溶融池を試料内に作製した。

 まず、走査型電子顕微鏡を用いて、レーザ照射域とその周辺での鉄成分の分布状態を比較した。破線で囲む溶融領域(図4の矢印)では、鉄成分が均一に検出されている。これに対して、周辺の未溶融部ではスポンジ廃材特有の鉄の偏析組織が残存する。レーザ照射によって試料が溶融すると、偏析組織を構成する鉄成分は溶融池内に均一に分布する。その後、急速に凝固冷却現象が進行する過程でFe原子の拡散が抑制され、Ti結晶内に鉄原子が均一に固溶する組織が得られる。

図4 スポンジ廃材へのレーザ照射により作製した溶融池とその近傍での鉄成分の分布状態および、照射部と非照射部でのXRD解析結果
図4 スポンジ廃材へのレーザ照射により作製した溶融池とその近傍での鉄成分の分布状態および、照射部と非照射部でのXRD解析結果[クリックで拡大]

 続いて、同じ試料表面を対象に、約10×10mm領域に同一条件でレーザを連続的に照射して作製した溶融部と、その周辺の非照射領域(未溶融の廃材まま)に対してX線回折(XRD)による構造解析を行った(図4)。レーザ照射領域では、鉄原子の固溶によって新たに生成したβ相の回折ピークを確認した。なお、非照射試料と比較して、全てのα相のピークが低角度側に移行している。これは雰囲気中の酸素(α相安定化元素)が溶融池に取り込まれ、急冷凝固過程でTi結晶内に固溶して結晶格子が拡張した。このように鉄を含むチタン材をβ相温度域から急速冷却することによって、鉄原子が均一に固溶するβ相を室温で生成できることを明らかにした。

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