鉄を使用したチタン再生技術:スポンジチタン廃材の再生技術(2)(1/3 ページ)
本連載では、大阪大学 接合科学研究所 教授の近藤勝義氏の研究グループが開発を進める「スポンジチタン廃材の再生技術」を紹介。第2回では、鉄を使用したチタン再生技術について解説する。
Ti-Fe合金の構造材料としての信頼性を調査
連載第1回では、チタンの製造工程の上流に位置するチタン鉱石(イルメナイト鉱)からスポンジチタンを製錬する工程は、酸素や鉄などの不純物を低減/除去するためにクロール法[参考文献1]と呼ばれるマグネシウム還元法に基づく金属チタンの分離/精製プロセスを利用することについて紹介した.
この工程では、四塩化チタンから成る素材をステンレス鋼製容器内に充填し、10日から2週間ほどの長期間をかけて高温状態で還元反応が穏やかに進行して高純度のスポンジチタンが得られる。その際、素材は容器と接するため、表層部には容器の主成分である鉄が拡散/濃化するとともに、酸素も不純物として混入する。
しかしながら、現行製法ではこれらの不純物の混入を完全に無くすことは困難である。これらの不可避的な不純物量の増加がチタン材の延性低下を招くため、日本産業規格(JIS)などは各不純物成分の上限値を厳密に定めている。このように還元反応を終えたスポンジチタンの表層部には、局所的に鉄成分が濃化する領域(図1の矢印)が存在し、そこでの鉄含有量はJISで規定された上限値(0.5重量%)を大幅に超える。
そのため、スポンジチタンの表層部や底部(全体の10〜15%)は切除して鉄鋼添加材として再利用し、中央部の健全な素材のみをチタン製品としている。その結果、スポンジチタンの材料歩留りの低下によるチタン素材の価格上昇を招いている。そこで著者のグループの研究(以下、本研究)では、不可避的かつ除去が困難な不純物成分である鉄を利用した新たなチタン合金の開発を目指す。
チタンは結晶構造の違いによって、α-Ti相(六方最密充填構造hcp)とβ-Ti相(体心立方構造bcc)に大別される[参考文献2]。鉄はβ共析型元素であり、わずか4wt.%以上の添加によりβ相内に固溶して安定化する特徴を有する。その一方、高濃度の鉄成分を含むと、非常に硬くて脆いω-Ti相の生成を促す結果、Ti-Fe合金の延性が低下して構造材料としての適用が制限される。
汎用チタン合金であるTi-6%Al-4%V(Ti64)合金に含まれるバナジウム(V)は、非常に高価な希少金属であるとともに、毒性元素であるために生体適用への懸念を有する。V元素もβ相安定化元素であることを踏まえると、廉価で毒性を有さない鉄は、V成分との代替元素として期待できる。
そこで、既往研究[参考文献3]では、Ti-Fe合金の実用化を目的に、α相安定化元素であるアルミニウム(Al)を含むTi-Fe-Al合金をアーク溶解法で作製し、結晶組織と力学特性を詳細に調査した。その一例として引張試験結果(図2)に見るように、Ti-5%Fe合金は弾性域で破断する脆性破壊を呈しているのに対して、Ti-4%Fe合金にAl成分を5%と7%を添加した試料では塑性変形挙動を示し、延性が改善している。ただし、JISに規定されている工業用純Ti(CP-Ti)材のなかで、例えば、3種Ti材(JIS H 4650)の引張強さは480〜620MPa、破断伸びは18%以上である。これらの力学特性に比べて、上記のTi-Fe-Al合金の強度は高いものの、延性は半分以下と著しく低い。すなわち、構造材料として利用する際の信頼性が十分ではないといえる。
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