DNAをその場で読む小型ナノデバイスを開発:医療技術ニュース
大阪大学などの研究グループは、DNAの二重らせんをその場でほどいて読み取る「ヒーター内蔵型ナノポア」を開発した。少電力でのリアルタイム解析を可能にし、将来的な小型遺伝子検査装置への応用が期待される。
大阪大学は2025年7月30日、DNA情報をその場で読み取る「ヒーター内蔵型ナノポア」を開発したと発表した。東京大学、産業技術総合研究所との共同研究による成果だ。
開発したナノデバイスは、半導体の技術で作られた微小な孔「ナノポア」に、白金製の極小なヒーターを組み込んだものだ。このヒーターに2mW程度の電力を供給すると、ナノポア付近だけが局所的に高温になる。これにより、DNAがナノポアを通る直前にピンポイントでDNAをあたため、DNAのらせん構造をほどいて1本鎖に変換して検出できる。DNAが通過する際のイオン電流変化を調べることで、DNAの塩基配列情報を即座に読み取れる。
実験では、4万8502塩基対のラムダファージのDNAなどを対象に、加熱の有無でDNAが通るときのイオン電流の変化を比較した。ヒーターを作動させた場合のみ、電流の減り方が半分程度になって現れるという、DNAが1本鎖化されたことを示す明確な信号変化が確認された。
試料全体を加熱したり化学薬品を用いたりする従来手法と異なり、ナノポア周辺のみを瞬時に加熱するため、DNAの損傷を抑えて、低消費電力、低熱雑音での計測が可能だ。特に4万塩基を超えるような長鎖の一本鎖DNAを安定的に検出できた点は、世界初の成果だという。
本技術は、将来的にはスマートフォンや小型診断機器への組み込みも想定される。がんや感染症の早期診断、災害時の遺伝子検査など、迅速かつ手軽な医療応用への展開が期待されている。
DNAの配列情報を調べる「ナノポアシークエンサー」では、生体分子から作られた「生体ナノポア」が主に使われているが、壊れやすく、安定性や量産性に限界がある。生体ナノポアに代わるものとして期待されているのが、シリコンなどの無機材料で作られた「固体ナノポア」だが、DNAを1本鎖にほどく有効な手段がなかった。
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