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“空飛ぶクルマ”の量産へ、スタートアップの成長に必要な内部統制製造IT導入事例(2/2 ページ)

“空飛ぶクルマ”を手掛けるSkyDriveが、外部から資金調達するスタートアップ企業としてステークホルダーからの期待や経営課題にどのように向き合っていくかを語った。

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M&Aや株式上場に向けて必要なこと

 スタートアップ企業の多くが目標の1つとするのは、M&Aや株式上場だ。これを実現するには証券会社や監査法人からの経営管理体制や内部統制に関する厳しいチェックに対応しなければならない。

 日本では、東京証券取引所は成長性を重点的に評価する改革を進めている。上場維持基準が厳しくなり、投資家への説明責任も重視されるなどスタートアップ企業にとって経営の難易度が高まっている。また、上場をゴールにするのではなく、その後の成長を描いて示していく必要もある。

 M&Aや株式上場に向けて、スタートアップ企業は人員規模を拡大させて成長を続けながらも、内部統制を保つ業務基盤を構築しなければならない。「スタートアップ企業は、初期の時点ではシステム化による改善よりも人が動く方がコストが安い場合もあり、そのまま人が頑張り続けなければならないフェーズもある。そこからいかに業務を標準化し、組織化していくかが求められる。標準化された定型業務が、ITやデジタルで置き換えることができる」(佐野氏)。

 こうした環境を踏まえて、当時使用していた安価なSaaS会計システムからの移行が必要だと判断したSkyDriveは、創業から2年でオラクルのERPであるNetSuiteを導入した。米国で上場したテック企業の6割がNetSuiteを採用しており、「ディスラプター」と呼ばれる影響力が注目される企業では採用率が7割を超えている。「NetSuiteを使うことは、解決策の1つとして客観性があるのではないか」(佐野氏)

量産に向けた原価管理も

 導入を検討した2020年の時点では、SkyDriveの全従業員が30人程度で、経理はCFOはおらずマネジャーが1人、IT担当は他の業務と兼任する1人しかいなかった。

 ERPの選定に当たっては、その時点の企業体力でも利用できる費用であり、利用人数の増加や使用する機能に応じた拡張性を持つ柔軟なライセンス形態であることを重視した。また、上場企業に求められる内部統制に耐えられ、将来的に再びシステム移管プロジェクトが必要にならないことも基準にした。「エグジットでいつか必要になるのであれば、早いうちから入れていきたいと考えた。早い段階から使いやすいサブスクリプション型の製品から探した」(佐野氏)

 成長途上のスタートアップ企業だからこそ、将来を見据えてロバストで柔軟な業務環境を構築できることが重要だった。また、標準機能や追加オプションの範囲内で対応でき、カバーしきれない範囲もカスタマイズできることから、NetSuiteに決めたという。

 「ノーコードでカスタマイズしてワークフローや入力フォームを用意できることがメリットとなった。きめ細かく申請や承認の経路を設定でき、履歴保存にも対応できる。メールなどによる通知機能も利用できる。導入した以上はなるべくいろいろな業務を集中させて、IT部門として見ていくのはこのERPだけにしようというくらいのつもりで使い始めた」と佐野氏は説明した。

 ノーコード/ローコードで開発できない部分はJavaScriptを使って、ボタンの特殊なアクションや、ボタンを押した裏で動くバリデーションの処理などを開発している。部門の親子関係を踏まえたリストアップなども、JavaScriptで対応したという。AI(人工知能)ベースで開発できる新機能も提供されている。

 NetSuiteは、当時使っていた会計システムから従業員や勘定科目、取引先のマスターを移行して使い始めたという。在庫会計や購買債務管理からスタートし、ドローンビジネスの立ち上がりに合わせて売り上げ管理など機能を追加していった。ドローンのビジネスをサブスクリプション化するなど新しい試みもNetSuiteの中で実現できたとしている。NetSuiteの日本向けローカリゼーションで導入された固定資産の新機能も採用した。

 また、当初はスプレッドシート経由でNetSuiteへの入力を依頼する体制だったが、入力が必要な部署が自らNetSuiteで作業できるようにするなど、運用の改善も続けている。「導入当時は社長とそれ以外のシンプルな階層だったが、階層が広がって管理職への権限移譲が進んだ。そうした変化にも対応できた」(佐野氏)


大阪・関西万博で空飛ぶクルマをアピール[クリックで拡大] 出所:SkyDrive

 今後は、サプライチェーンマネジメントでのNetSuite活用に取り組む。設計や資材の調達、在庫となる資材の管理、生産、製品検査、納入までサプライチェーンの全般でNetSuiteを活用していく。空飛ぶクルマに関しては試作のフェーズだが、量産に向けて製造原価の管理や標準原価なども経理として求められる。

 また、機能別、事業別の子会社を新たに設立していく中で、NetSuiteを横展開しながら管理を広げていくのも今後の取り組みの1つだ。NetSuiteの導入当初は3〜4カ月かけてマスターを整備していたが、現在は2〜3カ月まで短縮できている。「新しい子会社の管理部門の仕事は数カ月で成立させられる」(佐野氏)。

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