NTTが光通信の「X帯」を新規開拓、既存光ファイバーで10倍の大容量化が可能に:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
NTTは、従来の光通信波長帯を超えた新たな超長波長帯となる「X帯」を開拓することで、WDM信号の波長帯域を現行の光伝送システムの6.7倍となる27THzまで広帯域化するとともに、東名阪区間の距離に相当する1040km伝送後の伝送容量で従来比10倍となる160Tbpsの長距離大容量光伝送の実証に成功した。
ISRSの積極利用による長波長域の低損失化
もう1つの大きな研究成果は、石英ガラス光ファイバー中の特有の非線形作用によって生じるパワー遷移(誘導ラマン散乱)を積極的に利用して、X帯における光ファイバーの損失を実効的に低損失化し、X帯を用いたWDM信号伝送を可能にしたことだ。
通常、U帯より長い波長帯では、石英ガラス光ファイバーの吸収特性により急激に伝送損失が増加するため信号伝送には適さないと考えられてきた。実際に、ITU-T(国際通信連合)がU帯より長波長側を国際標準化していなかったのはこのためだ。一方で、広帯域な波長多重信号を光ファイバー上で伝送すると、誘導ラマン散乱と呼ばれる非線形作用によって、短い波長の信号から長い波長の信号へ光のパワーが遷移し、光ファイバーの伝送損失の波長依存性が実効的に変動する現象であるISRS(チャネル間誘導ラマン散乱)が起こることが知られている。今回の研究では、このISRSを積極的に利用することで、従来の波長帯であるC帯とL帯から、光パワーを遷移させ、U帯よりも長い波長の帯域を実効的に低損失化することで、信号伝送に利用することを提案した。
効率的な信号伝送を実現するためには、光ファイバー中で生じる非線形光学効果に起因する光信号ひずみやISRS、伝送損失を考慮して送信条件を最適化し、伝送設計を行う必要がある。ただし、対象となる帯域が極めて広く関わるパラメーターも多いため、実験的に伝送条件を最適化することは困難だ。そこで、ガウス雑音モデルと呼ばれる信号品質推定モデルを適用した数値シミュレーションによって実験条件の最適化を行ったところ、光スペクトルの両端であるS帯とX帯で同程度の損失に抑えられた。
そして、陸上伝送網における標準的な距離である、中継間隔80kmの周回伝送実験系を構築し27THz帯域の光増幅中継伝送実験を実施した。光ファイバー伝送路には、現在も利用されている既存伝送路である、標準シングルモードファイバーを使用した。波長多重間隔は150GHzを想定し、S帯は54波長8.1THz、C帯は30波長4.5THz、L帯は40波長6.0THz、U帯は28波長4.2THz、X帯は28波長4.2THzの波長多重信号を配置している。
144ギガボーPCS-QAM信号の伝送後の信号品質評価を全波長で実施したところ、東名阪区間に相当する伝送距離1040kmで総伝送容量160.2Tbps、東名区間をカバー可能な伝送距離560kmで総伝送容量は189.5Tbpsという実験結果を得た。これは、既存のシングルモード光ファイバーを用いた500km以上/1000km以上の長距離伝送において世界最大の伝送帯域かつ伝送容量を実現したことになる。また、新たに開拓したX帯においても、1チャネル当たりでTbps級の伝送が実現できており、大容量光伝送システムにおいてX帯を利用することの有効性も実証できたとしている。
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