光電融合デバイス実現に向けNEDOプロにNTTなどが採択、光チップレット技術ほか:組み込み開発ニュース
NTTは、「IOWN(アイオン)」として推進する光電融合技術を採用した半導体開発について、「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の採択を受けたと発表した。今後、政府の支援などを受けながら、光電融合デバイスの早期実現を目指していく。
NTTは2024年1月30日、「IOWN(アイオン)」として推進する光電融合技術を採用した半導体開発について、「NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の採択を受けたと発表した。今後、政府の支援などを受けながら、光電融合デバイスの早期実現を目指していく。
IOWN構想は、光電融合技術を活用することで、現在のICT(情報通信技術)の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現を目指したものだ。フォトニクスとエレクトロニクスを組み合わせることで、電力効率100倍、伝送容量125倍、遅延200分の1などの効果が得られるとしている。
IOWNは、最初にデータセンター間の接続を実現する「IOWN1.0」から開始しており、こちらは2023年にサービスが開始されている。その後、2025年度にはボード間の接続、2028年度にはチップ間の接続、2032年度にはチップ内の光化へと、徐々に小型で微細な環境での実現を目指している。
既に数々のNEDOプロジェクトに採択され、データセンター間を結ぶIOWN オールフォトニクスネットワーク(APN)などでもいくつものプロジェクトが現在進行形で動いているところだが、今回NEDOのプロジェクトに採択された技術は、主に2028年度以降のチップ間接続で使用される技術だ。具体的には「光チップレット実装技術」「光電融合インターフェイスメモリモジュール技術」「確定遅延コンピューティング基盤技術」の3つだ。
NTT IOWN推進室長の荒金陽助氏は「光電融合技術を用いることで、コンピュータの形もCPUセントリックの形を大きく変えることができるようになる。光のインタフェースを備えることで、電力効率の高い新たなアーキテクチャを構築できる」と述べている。
光チップレット実装技術の開発は、NTT、古河電気工業、NTTイノベーティブデバイス、NTTデバイスクロステクノロジ、新光電気工業が実施社となり、光電融合技術を用いたパッケージ内光配線技術の開発に取り組む。実現のために光集積回路(PIC)と電子集積回路(EIC)を高密度パッケージング技術を用い、ハイブリッド実装した光電融合デバイス(光チップレット)の開発を行う。これをロジックICなどを含むパッケージ内光配線に適用することで光ディスアグリゲーテッドコンピューティングなどを実現し、システム全体のリソース削減により、デバイスの圧倒的な低消費電力化を実現する。
光電融合インタフェースメモリモジュール技術の開発は、NTTとキオクシアが実施社となる。データセンタースケールの光インターコネクトに光で直結できる広帯域メモリモジュールに向けて、「メモリコントローラ」と「広帯域バッファメモリ」を開発し、大容量のメモリ、光電融合デバイス(光チップレット)と共に「フォトニックファブリックアタッチトメモリモジュール(PFAM)」として実装する。PFAMにより、複数の演算リソースから広帯域の光により確定遅延でアクセスできるメモリプールを実現する。開発の一部は東北大学に再委託するという。荒金氏は「光電融合デバイスでは、メモリの書き込み速度より光の伝送速度の方が早い場合があり、その場合にメモリ側で独自の制御が必要になり、その技術を開発する必要がある」と語っている。
確定遅延コンピューティング基盤技術の開発は、NTT、NEC、富士通が実施社となる。光電融合技術および光ネットワーク技術により、データ転送から分析までの一連の処理を確定遅延で、かつ優れた電力効率で実行するコンピューティング基盤の実現を目指す。そのために、プロセッサ間のデータ転送、データ処理の不確定性を削減した、高効率な確定遅延コンピューティング基盤技術の研究開発を行う。「コンピューティングには不確定な遅延による処理待ちの時間が数多く存在し、その不確定性を低減するために、距離を近くするなどの必要性があったが、遅延が確定できれば、処理全体の遅延影響を限りなく低減できるほか、待ち時間などの無駄な消費電力も削減できる」と荒金氏は価値を訴えている。
NTTではこれらの技術をNEDOの支援を受けながら進めていく他、IOWN Global Foruumと協力しながら、光電融合の世界の実証と定着を加速させていく考えを示している。
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