フロンレスからネットゼロへ、セイコーエプソンが語る環境経営の本気度:脱炭素(2/2 ページ)
アイティメディアはオンラインセミナー「MONOist 環境問題対策セミナー 2025 春『儲かる環境問題対策』を実現するために何が必要か」を2025年6月5日に開催した。本稿では、セイコーエプソン 地球環境戦略推進室 副室長の木村勝己氏による基調講演の内容を抜粋して紹介する。
環境ビジョン2050達成のために4つの活動に注力
2021年3月に改訂した「環境ビジョン2050」では、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」をセイコーエプソンのみならず社会全体で達成し、持続可能でこころ豊かな社会を実現することを目指す。
カーボンマイナスは、事業活動に起因する全ての温室効果ガス(GHGプロトコルのスコープ1、2、3)の排出を絞り込み、残ったGHG以上のCO2を除去することを目指したものだ。一方、地下資源消費ゼロは、地上にある資源をリサイクルやリユースすることで、人類がコントロールできる素材と併せて社会を回せるようにすることを目標にしている。これらを実現するために「脱炭素」「資源循環」「お客さまのもとでの環境負荷低減」「環境技術開発」の4つの切り口で、取り組みを進めている。
脱炭素に対しては、再生エネルギーの活用などで環境配慮型のモノづくりなどを徹底的に進めることで、サプライチェーン全体での排出削減に取り組んでいく。温室効果ガス排出削減目標は、現在までSBT(Science Based Targets)に承認されていた2025年の目標を2024年に前倒しで達成できたことからNet-Zero目標を含めた新たな目標を提出し承認された。2030年度にスコープ1+2+3の排出総量を2017年度比で55%削減する。
既に、事業所の再生可能エネルギー化率100%を推進し2023年末は全ての電力の再生エネルギー化を達成した。電力会社との再生可能エネルギー契約を優先し、オンサイトでの発電も積極的に推進する。再エネ契約が難しい地域での電力は、再エネ電力証書で補う。
「資源循環」については、製造して販売した製品やサービスを再度製品やサービスに生まれ変わらせるリファービッシュやリユースを拡大させる他、リサイクルによる再資源化と再生資源材料の活用により、資源循環の輪を作る。具体的には、プリンタなど製品本体への再生材の利用や包装材に再生材やバイオマス材の採用を進めている。また、不要な金属を原料として再資源化するエプソンアトミックスの新工場(青森県八戸市)を建設し、2025年6月から稼働を開始している。
「お客さまのもとでの環境負荷低減」については、低環境負荷な製品を活用してもらうことで社会全体の環境負荷低減を図るというものだ。それを定量的に示す指標として「削減貢献量」を設定している。これは、セイコーエプソンの商品やサービスを使った場合とそうでない場合との比較で、GHG排出量の差分がどうなるかを推定し算定するものだ。この削減貢献量を最大化するような取り組みを進める。
これらの取り組みを支える基盤となる「環境技術開発」については独自のドライファイバーテクノロジーの応用、金属原料リサイクルなど材料技術開発を中心に推進する。ドライファイバーテクノロジーによる解繊技術をもとに古紙、衣料端材などの繊維素材の再生技術の開発や繊維複合バイオプラスチックの開発に取り組む。このほか、カーボンマイナスを達成するために薄膜技術を応用したCO2の分離技術や微細藻類による回収技術の研究も進めている。
脱炭素の取り組みをサプライヤーとともに広げていくことを目的に「エプソングリーンサプライチェーン」活動を展開し協力体制を築く。セミナー開催の他、各社の現状把握のための調査を行い、再生可能エネルギーの調達を含めて、活動段階に応じた支援を行う。これらを踏まえ、サプライチェーン全体での排出量削減に向けた取り組みを協力して進めていく。「取り組みそのものが、サプライヤーのスコープ1、2の削減にもつながり、共創するメリットを訴えていきたい」と木村氏は述べている。
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