液体ガリウムを用いて作製したHEO超薄膜で、酸素発生反応を高効率化:研究開発の最前線
早稲田大学は、液体ガリウムを用いたハイエントロピー酸化物超薄膜の作製に成功した。また、作製したHEO超薄膜にひずみを導入することで、酸素発生反応に高い触媒活性を示す電極触媒が得られた。
早稲田大学と名古屋大学の研究グループは2025年7月23日、液体ガリウムを用いて、ハイエントロピー酸化物(HEO)超薄膜の作製に成功したと発表した。また、作製したHEO超薄膜にひずみを導入することで、酸素発生反応(OER)に高い触媒活性を示す電極触媒を得られることを明らかにした。
HEOは、5種類以上の金属元素を均一に含むことで、高い化学安定性や触媒活性が期待される次世代材料だ。しかし、薄膜として安定的かつ均一に成膜するのは難しく、数nm厚の超薄膜の作製には非常に高度な技術が必要になる。
今回の研究では、液体ガリウム上に自然に形成される酸化ガリウム層に着目。この層が多くの金属イオンに対して親和性が高いという性質を利用して、5種類の金属イオンを取り込みHEO超薄膜を形成した。金属イオンは熱処理により酸化され、厚さ約10nmの超薄膜となる。透過型電子顕微鏡による分析では、5元素が酸化ガリウムの外側に均一に分散していることが確認された。
酸化ガリウムとHEO超薄膜との強い相互作用により、薄膜にはひずみが導入され、これがOERにおける自由エネルギー障壁を低下させる。HEO超薄膜はナノサイズの低次元構造と広い表面積、複数の活性サイトを併せ持ち、標準的に使用される酸化ルテニウム電極より優れた触媒活性を示した。
同研究で作製したHEO超薄膜は、電極触媒として優れた性能を持ち、水の電気分解におけるOERの改良に貢献する。また、同作製手法により多様な組成のHEO超薄膜を再現性高く作製できるため、電池材料や各種触媒への幅広い応用が期待される。
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