自己修復性シリコーン系薄膜を開発 硬度と長期安定性を向上:研究開発の最前線
早稲田大学は、微細なひび割れの修復能力を持つシリコーン系薄膜を開発した。従来のシリコーン系自己修復性材料に比べて約30倍の硬度を示し、低分子量環状シロキサンの揮発がないため、長期的安定性も向上する。
早稲田大学は2025年3月4日、微細なひび割れの修復能力を持つシリコーン系薄膜を開発したと発表した。透明性が高く、保護コーティングなどへの応用が期待される。
シロキサン(Si‐O‐Si)結合を主骨格とするシリコーン系材料のうち、ポリジメチルシロキサン(PDMS)系材料は、シラノレート(Si‐O−)基を導入することでS‐O‐Si結合の組み換えが促進され、自己修復性を付与できる。しかし、柔らかいゴム状の形状に限られ、低分子量のシロキサン分子の生成による耐久性の低下が課題だった。
研究グループは、有機シロキサン層とPDMS層から成る多層構造を構築することで、この課題に対応。具体的には、ポリエチレンオキシド(PEO)とPDMSを連結したブロックコポリマーを用い、有機シロキサン層とブロックコポリマーが交互に重なった多層ナノコンポジットを自己組織化プロセスにより生成した。この多層ナノコンポジットを加熱することでPEOブロックが除去され、ブロックコポリマー層をPDMS層に転換する。
作製した薄膜で亀裂の修復挙動を観察したところ、80℃、相対湿度40%の環境で亀裂の修復を確認した。従来のシリコーン系自己修復性材料に比べて約30倍の硬度を示し、低分子量環状シロキサンの揮発がないため、長期的安定性も向上する。
無機のシロキサン骨格を由来とする高い耐熱性と耐候性により、幅広い分野での利用が期待できる。現状では加熱や水蒸気を必要とするため、今後はより温和な条件下での修復を目指し、開発を進める予定だ。
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