次世代の説明可能AIを活用し、磁性材料のエネルギー損失原因を明らかに:研究開発の最前線
東京理科大学は、物理とデータ科学が融合した次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」を用いて、磁性材料のエネルギー損失の原因を解明した。
東京理科大学は2025年7月15日、物理とデータ科学が融合した次世代の説明可能AI(人工知能)「拡張型自由エネルギーモデル」を用いて、磁性材料のエネルギー損失の原因を解明したと発表した。筑波大学、岡山大学、京都大学との共同研究による成果だ。
EV(電気自動車)のモーターでは、磁性材料が発生するエネルギー損失(鉄損)が、効率低下の原因となる。今回の研究では、97%のモーターに使用されている無方向性電磁鋼板(NOES)を対象に、拡張型自由エネルギーモデルで解析した。同モデルは、物理に根ざした特徴量を情報空間上に地形として描画する。
具体的には、まずモーターの鉄心に使うNOESの磁区構造を、高分解能の顕微鏡で観察して800枚の画像を取得した。数学的な位相幾何(きか)学の新概念となるパーシステントホモロジー(PH)を用いて、これらの画像の特徴を定量化。ML(機械学習)の手法となる主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)により、本質的な特徴を抽出して解釈可能な形にした。その結果、エネルギー損失の要因がいつ、どこで起きているかを示せるようになった。
同手法を活用して、異なる方向に磁化した磁区の間にできる磁壁が、物質内の不純物などで動かなくなるピン止め現象を解析。促進因子と抵抗因子としてのピン止めの役割を区別して可視化した。これにより反転過程は、一般的な粒界におけるピン止めに加え、細分化された粒内の磁区にも支配されていることが新たに分かった。これまで一くくりにされてきた複雑な磁壁の役割を見分け、その位置を見える化することに成功した。
研究グループが提案した拡張型自由エネルギーモデルは、数学のトポロジーと熱力学の自由エネルギーの概念を組み合わせたものとなる。これまで定性的かつ主観的な解析が中心だった機能性材料への応用も可能で、さまざまな機能性材料を改善する基盤となり得る手法として期待される。
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