アンモニアを高密度で吸着、繰り返し再生できる単分子結晶吸着材を開発:研究開発の最前線
東京工業大学と東京理科大学は、アンモニアを高密度で吸着する単分子結晶吸着材を開発した。減圧操作によるアンモニアの脱着が可能で、結晶性や吸着量を維持したまま、繰り返し再生できる。
東京工業大学は2024年7月16日、東京理科大学との共同研究で、アンモニアを高密度で吸着する単分子結晶吸着材を開発したと発表した。減圧操作によるアンモニアの脱着が可能で、結晶性や吸着量を維持したまま、繰り返し再生できる。
開発した吸着材は、酸性官能基を有するリング状分子を固体中で積層させた細孔性単分子材料だ。具体的には、まずカルボキシ(CO2H)基を有するオリゴフェニレンリング1aを合成。このリング1aのクロロホルム溶液にメタノールを加えて再沈殿させ、リング1aがカラム状に積層した結晶性固体材料を作製した。
同材料を用いて、20℃の温度下でアンモニアガスの吸着を試みたところ、極低圧域からアンモニアの吸着が可能であることを確認。最終的には、8.27mmol/gのアンモニアを吸着できた。吸着密度は0.533g/cm3で、液体アンモニアの密度(−33℃で0.681g/cm3)に近かった。吸着したアンモニアは、室温下で1時間減圧すれば完全に除去できる。実験では、20℃の環境で9回連続の脱着に成功している。
(a)CO2H基で修飾されたオリゴフェニレンリング1aの構造式とその結晶性固体の写真、(b)1aの結晶性固体の構造、(c)リング1aの結晶性固体に対し、20℃でアンモニアガスを9回連続で吸脱着させた際の吸脱着等温線[クリックで拡大] 出所:東京工業大学
この結晶性固体材料は、化学安定性に優れ、340℃まで加熱しても分解しなかった。また、1M(モル濃度)の塩酸や水酸化ナトリウム水溶液に24時間さらしても変化しない。
液体アンモニアは、同じ体積で液体水素の約1.7倍の水素を含有できることから、水素の社会実装に向けたエネルギーキャリアとして期待されている。研究チームは今後、官能基の修飾の適切化や吸着能、選択性の向上に取り組み、液体アンモニア以上の密度でアンモニアを吸着できる材料の開発を目指す。
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