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3Dプリンタで成形する複合材料は世界を変えるか?複合材料と3Dプリンタのこれまでとこれから(1)(1/4 ページ)

東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。第1回では、複合材料を成形可能な3Dプリンタの歴史や現状、同プリンタを用いて機械部品を設計する際に必要な安全率の重要性について紹介します。

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 皆さん初めまして。MONOistでは初めて連載記事を書かさせていただきます。現職は東京工業大学(2024年10月1日から東京科学大学)で教授を務めていますが、複合材料と金属製品の設計や製造/3Dプリント製品のコンサルティングを行うTodo Meta Compositesという会社の代表社員もしております。今回はMONOistの連載記事として、これから数回に渡り、複合材料を成形可能な3Dプリンタの現状や今後、どういう分野に使われるのかなどについて解説していきたいと思います。

 第1回目の今回は「3Dプリンタで成形する複合材料は世界を変えるか?」というタイトルで、複合材料を成形可能な3Dプリンタに関する国内の動向についてお話しします。併せて、ぜひともお話ししておきたい、機械設計における安全率についてのお話もしていきます。多くの方が勘違いされているポイントですが、設計に使われる安全率は決して固定値ではないのです。機械設計についてよく分からない方にも分かりやすいように、解説していきます。

複合材料を成形可能な国内の3Dプリンタの動向

 短繊維がフィラメントに入った複合材料を成形可能な3Dプリンタは比較的早い時期からありました。短繊維入りのフィラメントは成形が容易ですが、機械的特性はプラスチックと比較して著しく良いとは言えません。一方、連続繊維がフィラメントに入った複合材料を成形可能な3Dプリンタとして世界で初めて発売されたものは、米国の3Dプリンタ企業であるMarkforgedが発売した「Markforged The Mark One(以下、Mark One)」です。Mark Oneの発表は2014年1月です[参考文献1]が、発売の正確な時期は分かりません。私がMark Oneを入手できたのは2015年9月ですので、発売日はその少し前くらいだと思います。

 連続繊維が入った複合材料を成形可能な3Dプリンタの構造を説明するために、Mark Oneの後継機である「Markforged The Mark Two(以下、Mark Two)」の外観を図1に示します。図1に示すように、Mark Twoは、ベッドが上下に動き、プリントヘッドが面内2軸方向に移動します。図2にMark Twoのプリントヘッドを示します。Mark Twoでは、樹脂あるいは短繊維のフィラメントと連続繊維のフィラメントを別のノズルでプリントします。図3にそれぞれのノズル形状を示します。樹脂あるいは短繊維のノズルと連続繊維のノズルは形状が全く違います。

図1 Markforged The Mark Two(左)と図2 そのプリントヘッド(右)
図1 Markforged The Mark Two(左)と図2 そのプリントヘッド(右)[クリックで拡大]
図3 Markforged The Mark Twoのノズル
図3 Markforged The Mark Twoのノズル[クリックで拡大]

 連続繊維入りの複合材料を成形できるMarkforged製の3Dプリンタに関しては、最初のMark Oneはかなり不具合の多い製品でしたが、2018年に発売されたMark Two以降の製品は高い信頼性を持つ優秀なものになっています。日本で入手できるこういった3Dプリンタには、Markforged製のもの以外にもルクセンブルクの3DプリンタメーカーであるAnisoprintの「Anisoprint Composer」があります[参考文献2]。Anisoprint Composerは、ノズルを2つ備えており、連続繊維が熱硬化性樹脂で成形されているフィラメントを熱可塑の接着剤でかためていくような仕組みを採用しています。

図4 カーボン複合材料の成形が可能なAnisoprintの3Dプリンタ「Anisoprint Composer」
図4 カーボン複合材料の成形が可能なAnisoprintの3Dプリンタ「Anisoprint Composer」[クリックで拡大] 出所:日本大学 教授の上田政人氏

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