6G時代のTHz帯通信に向け第一歩、NTTと東工大が300GHz帯の高速データ伝送に成功:組み込み開発ニュース
NTTと東京工業大学は、300GHz帯に対応するフェーズドアレイ送信モジュールを開発するとともに、同モジュールを用いたビームフォーミングによる300GHz帯高速無線データ伝送に世界で初めて成功したと発表した。
日本電信電話(NTT)と東京工業大学は2023年6月13日、300GHz帯に対応するフェーズドアレイ送信モジュールを開発するとともに、同モジュールを用いたビームフォーミングによる300GHz帯高速無線データ伝送に世界で初めて成功したと発表した。2030年代の利用が見込まれる次世代の移動体通信技術である6Gは、現行の5Gで用いられている28GHz帯や39GHz帯などのミリ波帯に加えて、より高周波数域のTHz帯の活用が検討されている。今回の開発成果は6GにおけるTHz帯活用に向けた第一歩となる。
今回開発したのは、4個の送信素子を並列に配置した4素子フェーズドアレイ送信モジュールだ。各送信素子から出力される電波の位相や強度を制御することでビームフォーミングを行って指向性制御範囲を36度とした上で、50cm離れた評価用受信機へのデータ転送を行い、最高で30Gbpsのデータ転送速度を達成したという。
この送信モジュールは、NTTの独自技術であるのInP HBT(インジウムリン系ヘテロ結合バイポーラトランジスタ)技術によって高出力化したパワーアンプ回路とアンテナを集積したInP-ICと、東京工業大学 工学院 電気電子系 教授の岡田健一氏らの研究グループが開発した周波数変換回路や制御回路などを搭載した高集積のCMOS-ICから構成されている。
新開発の送信モジュールにおけるビームフォーミングと高速無線データ伝送を可能にした高出力化技術は大まかに分けて2つある。
1つは、300GHz帯高出力パワーアンプ回路の設計である。NTT独自のInP HBT技術でパワーアンプ回路を製造し、複数の増幅素子から出力される電力を独自の低損失合波器を用いて束ねることによって高出力化を図った。これによって、CMOS-ICから出力される信号を増幅して同一チップ上に形成されたアンテナから受信端末に向けて電波を放射し、高速データ伝送に必要な大きな電力を受信端末に送り届けることができた。
もう1つは、高周波帯低損失実装技術である。300GHz帯で異なる種類のIC同士を接続するためには、それぞれのICを金属製のパイプである導波管モジュールに実装し接続することが一般的だった。この場合、導波管を通過する際に生じる損失が問題となる。今回開発した送信モジュールでは、InP-ICとCMOS-ICを同一基板上にフリップチップ実装し、数十μmの微小な金属バンプを介して接続する工夫を施した。InP-ICとCMOS-IC間の接続損失は5dB以下となっており、これによって高出力化につなげた。
6Gにおける300GHz帯の活用を切り開いていく
広帯域を利用できるため、6Gで求められる100Gbpsクラスの高速無線通信が可能な300GHz帯だが、空間を伝搬する際の電波損失が大きいという課題がある。その課題克服のためには受信端末が存在する方向に向けて電波のエネルギーを集中させて放射するビームフォーミング技術が必要になる。
5Gのミリ波帯ではCMOS-ICで構成されたフェーズドアレイ送信モジュールによってビームフォーミングを実現している。しかし、周波数の高い300GHz帯においてCMOS-ICのみでは出力電力が不足するため、より出力電力を高められるGa(ガリウム)やIn(インジウム)といったIII-V族の元素を用いた化合物半導体と組み合わせる必要があった。
これまでのミリ波帯以上の高周波数帯域でのビームフォーミングによる高速無線データ伝送は、研究レベルでも150GHz帯までしか実現できていなかった。今回の300GHz帯の成果におけるデータ転送速度は、従来の150GHz帯で実現しているのと同じ30Gbpsにとどまっているが、4素子フェーズドアレイ送信モジュールの実装基板を工夫するなどの残課題をクリアすることで、6Gで想定される100Gbpsに到達可能なポテンシャルは十分にあるという。
今後は、送信モジュールの素子数の増強や2次元アレイ化よる2次元ビームフォーミングの実証、アレイ数を増やすことによる通信距離の拡張などに取り組む。現時点において、標準化団体である3GPPは6Gの仕様を策定中であり300GHz帯の活用も検討中となっている。NTTは、今回の開発成果をさらに進めて技術的な可能性を示すことで、6Gにおける300GHz帯の活用を切り開いていきたい考えだ。
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