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複合材料3Dプリンタの成形条件最適化を図れるシミュレーションソフトを開発複合材料と3Dプリンタのこれまでとこれから(3)(1/2 ページ)

東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。著者の研究グループが開発した、複合材料3Dプリンタの成形条件最適化を図れるシミュレーションソフトなどについて解説します。

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 本連載ではこれまで、連続繊維の複合材を印刷できる3Dプリンタの動向と新規複合材3Dプリンタの解説を行ってきました。今回は、複合材を3Dプリントする際のシミュレーションについて解説していきたいと思います。まずは短繊維複合材の熱溶融積層法を対象とした3Dプリントのシミュレーションソフトについて、お話します。

 金属3Dプリントプロセスのシミュレーションソフトは既に市販のものもあります。その多くは有限要素法(FEM)に基づくものです。このソフトでは、熱応力や熱変形などをシミュレーションできますが、液化金属の流動にはあまり対応していません。なぜかというと、金属では熱伝導性が高く比較的早く固化してしまうためです。

 一方、樹脂の3Dプリンタでは、溶融した粘性の高い樹脂の流動が必要になるため、有限要素法は使いづらいです。なぜなら、流動するたびにメッシュ分割をしないとならないからです。ほとんどの市販ソフトでは入力データに液体時の樹脂粘性データ入力がないために、流動解析はできないと思われます。このため、樹脂の3Dプリンタでは粒子法を使ったシミュレーションが研究論文としては多く存在します[参考文献1]。

 実は粒子法には2種類あります。SPH法(Smoothed Particle Hydrodynamics)とMPS法(Moving Particle Semi-implicit method)です。一般には、SPH法は圧縮性の流れを扱い、MPS法は非圧縮性を扱うとされていますが、今は改良されてSPH法で非圧縮性流体を、MPS法で圧縮性流体を計算できるようになっています。ネット上にある解説を読んでいただければ、SPH法とMPS法のだいたいの違いは分かります[参考文献2]。

 SPH法を扱える市販ソフトもあり、これは計算時間も短いために熱溶融積層型の3Dプリントのシミュレーションに多く利用されています。このソフトでは複合材もシミュレーションできます。その際には複合材をバネ粒子の結合のように離散要素法(Discrete Element Method)で解析しています[参考文献3]。このソフトを実用的な計算速度にするためには、繊維の体積含有率を極端に低くして、印刷時の繊維の動きを見るような計算にする必要があります。そして、SPH法では粒子が空間の補間関数のための点にすぎないため、樹脂の固化時の潜熱の扱いが面倒であり、固化時の解析が不正確になりがちです。

 一方、MPS法では粒子1個をカプセル化された物質と見なすことができます。これは、MPS法では微分を離散粒子の重みづけ和から求めるモデル化を実施しているためです。さらに、粒子1個内の物理状態も均一と見なすことができるのです。このため、粒子1個分の空間における固化/液化の潜熱などを考慮しやすい特徴があります。

 そこで、著者の研究ではMPS法を使用したシミュレーションソフトを開発することにしました。繊維の体積含有率を実際の値に近づけたいことや樹脂流動にシミュレーションの目的を絞っていたことが理由です。図1に3Dプリンタ「Markforged Mark Two」で印刷した短繊維炭素繊維複合材(Onyx)のインフィルの±45度層のX線CT画像を示します。表面では全くパス間にギャップが見えないのですが、インフィルではこのように激しいギャップがある場所があります。このような状態にならないための成形条件最適化がシミュレーションソフト開発の目的でした。

図1 Markforged Mark Twoの±45度、パスOnyxインフィルのX線CT断面
図1 Markforged Mark Twoの±45度、パスOnyxインフィルのX線CT断面[クリックで拡大]
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