ナノスケールで強誘電体における分極反転挙動の観察手法を開発:研究開発の最前線
東北大学と東京工業大学は、新しい顕微鏡手法「局所C-Vマッピング法」を開発した。ナノスケールの空間分解能で、強誘電体における分極反転電圧の面内のばらつきを観察できる。
東北大学と東京工業大学は2024年5月1日、新しい顕微鏡手法「局所C-Vマッピング法」を開発したと発表した。走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)と呼ばれるプローブ顕微鏡を改良した計測システムにより、ナノスケールの空間分解能で、強誘電体における分極反転挙動の観察を可能とした。
SNDMの測定感度は極めて高いため、先端がナノメートルサイズサイズの針(プローブ)を用いて静電容量-電圧(C-V)曲線を測定できる。同手法では、強誘電体に分極反転電圧を超える振幅の交流バイアス電圧を印加しながら、静電容量を測定。さらに、複数の地点を計測することで、2次元画像的なデータを取得し、分極反転電圧の面内のばらつきを直接観察することに成功した。
計測データの解析にはML(機械学習)を用い、分極反転挙動の分布を画像で視覚的に表示。表面形状像とC-Vマップデータの併用により、結晶粒の境界などが分極反転挙動に及ぼす影響を詳細に調べられる。
超低消費電力メモリデバイスやAI(人工知能)デバイスの材料として注目されている強誘電体材料は、分極反転動作の繰り返しで分極量が減少する分極疲労の抑制が課題となっている。また、デバイスの微細化により顕在化したセルごとの特性のばらつきにも対応が必要だ。
同手法の計測時間は10分で、従来手法の約300分の1に短縮できる。分極反転の阻害要因となる結晶欠陥などの場所やかたよりを、実空間で把握可能なことから、強誘電体材料の特性改善への応用が期待される。
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