電気の力で芳香環に炭素原子を1つ加える分子変換法を開発:研究開発の最前線
横浜国立大学らは、電気の力を利用し、芳香環に炭素原子を1つ加える分子変換法を開発。芳香族五員環化合物ピロールを、六員環のピリジンへと変換する反応で、特定の位置への高選択的な炭素挿入を可能にした。
横浜国立大学は2025年7月15日、電気の力を利用し、芳香環に炭素原子を1つ加える新しい分子変換法を開発したと発表した。芳香族五員環化合物であるピロールを、六員環のピリジンへと変換する独自の反応で、特定の位置(para位)への高選択的な炭素挿入を可能にした。
今回の研究は、京都大学、バース大学、富山大学、国際医療福祉大学、東京大学と共同で実施。有害な試薬を使用せず、室温かつ常圧で反応する、電気化学的アプローチによる分子変換技術を用いた。
まず、電極上でピロールを一電子酸化し、ラジカルカチオンと呼ばれる中間体を生成。この中間体に対し、α-Hジアゾエステルを炭素源として反応させることで、炭素原子がピロール環に挿入される。また、電子を引き寄せる保護基をピロールに導入し、炭素の挿入位置を精密に制御することに成功。従来の求電子置換反応では困難だった、para位(対向する位置)への挿入を高収率で達成した。
理論計算や電気化学的解析も実施し、分子の電子構造や酸化電位が反応の進行と選択性に大きく影響することを明らかにした。1原子単位での芳香環の改変が可能となる今回の手法は、創薬や機能性材料分野における新しい分子設計のツールとして期待される。
今後は、複雑な分子構造や医薬品中間体への応用、本反応のフロー電解への展開や、触媒的手法との融合によるスケールアップおよび高効率化も視野に入れ、実用的な合成プロセスの構築を進めていく。
芳香族化合物は、医薬品や機能性材料の中核をなし、これらの化合物の機能性や物性は、環上の原子や官能基の配置によって大きく左右される。特に、前駆体環状化合物に任意の元素を導入する環拡大反応による芳香族化合物の合成が注目されているが、従来の環拡大反応は、導入できる位置に制限があった。
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