強相関電子材料は室温で電流方向に依存し抵抗変化 省エネ電子デバイス開発に貢献:研究開発の最前線
理化学研究所は、キラル構造を持つ磁性体Co8Zn9Mn3が、室温で電流方向に依存して変化することを明らかにした。スピンと電子の相関を利用した、省エネルギーな情報制御の基盤技術への発展が期待される。
理化学研究所は2025年7月5日、キラル構造を持つ磁性体Co8Zn9Mn3が、室温で電流方向に依存して変化することを発表した。スピンと電子の相関を利用した、省エネルギーな情報制御の基盤技術への発展が期待される。早稲田大学、住友化学との共同研究による成果だ。
電気を使った機器では、電流に比例して電圧も大きくなるというオームの法則を基本原理としている。一方で近年は、電流と電圧が比例しない非線形な応答が注目されている。今回の研究では、非線形電荷輸送現象の中でも、非相反電荷輸送が期待されるCo8Zn9Mn3(コバルト、亜鉛、マンガンの合金)」に着目した。
この金属材料は、磁気状態を決めるコバルト原子が、左または右巻きにねじれたキラルな構造を持つ。この構造と外からの磁場を組み合わせることで、方向により電流の流れ方に違いが出る非相反電荷輸送が生じると考えられる。実験では、数μmの微小な試料を作成し、高密度の電流を流して電気的応答を測定した。
その結果、異なる温度や磁場の条件により、2種類の非相反電気抵抗を観測。それぞれの成分を分離して解析すると、スピンが円すい状に配列(コニカルスピン配列)した際に強い磁場をかけて強制的にスピンをそろえた領域では、特殊な相互作用で2つのスピン間の相対的な向きに揺らぎが生じ、キラルな短距離スピン構造(ベクトルスピンカイラリティ)が誘起された。これに依存した電子の散乱が非相反電荷輸送現象を引き起こし、室温付近でその効果が大きくなることが分かった。
一方、コニカルスピン配列を維持している温度、磁場条件下では、異なる非相反電荷輸送現象の温度依存性を確認した。このことから、コニカルスピン配列の向きに応じて、電流を運ぶ電子が左右非対称なエネルギーバンド構造を示すことが明らかとなった。ベクトルスピンカイラリティによる散乱とは異なる、第2の非相反電荷輸送現象が現れることが示され、単一のらせん磁性体で複数の要因による非線形な電荷輸送が生じることが示唆された。
同研究では、キラル磁性体において、幅広い温度領域で非相反電荷輸送現象を確認できた。また、異なる温度と磁場条件下で生じる2種類の非相反電荷輸送現象の発現機構を解明できた。今後、小型でエネルギー効率の良い電子デバイスの開発につながることが期待される。
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