さまざまな官能基を持つ機能性ナノグラフェンの合成法を確立:研究開発の最前線
理化学研究所は、多様な官能基を持つ機能性ナノグラフェンの合成に成功した。中性から塩基性の条件下での合成法を開発し、これまでにはない高い水溶性や光応答性、蒸気感応性などの機能を示すナノグラフェンを合成できる。
理化学研究所は2025年1月24日、多様な官能基を持つ機能性ナノグラフェンの合成に成功したと発表した。これまでにはない高い水溶性や光応答性、蒸気感応性などの機能を示している。台湾中央研究院 化学研究所との国際共同研究チームによる成果だ。
ナノグラフェンは、蜂の巣状に炭素が結合した2次元シート状物質のグラフェンをnmサイズに切り取った芳香族分子だ。近年では多様な官能基を組み込んだ機能性ナノグラフェンが期待されているが、その合成は容易ではない。
研究グループは、機能性ナノグラフェンの合成に使用している強力な酸化剤や酸の代わりに、中性から塩基性の条件下での合成法を開発した。パラジウム触媒を独自の出発原料に作用させることで、一段階でナノグラフェンの構造パターンであるジベンゾクリセンを得られた。
この合成法により、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基などの極性官能基、ピリジン環やキノリン環のようなヘテロ芳香環を含むナノグラフェンを合成。これらのナノグラフェンに化学修飾を行い、カチオン性ナノグラフェン、アゾベンゼン型ナノグラフェン、双性イオン型ナノグラフェンなど、これまで開拓されていなかった新しい機能性ナノグラフェンの合成にも成功した。
これらの機能性ナノグラフェンの性質を調べたところ、正の電荷を持つカチオン性ナノグラフェンは、水やアルコールなど極性の高い溶媒でも容易に溶けた。また、アゾベンゼン型ナノグラフェンは、紫外光に応答してトランス体からシス体に構造変化したが、加熱で再びトランス体へと戻った。
双性イオン型ナノグラフェンは、微量の水や酸で500〜650nmの可視光を吸収しなくなることが分かった。この特性は色の変化として現れ、茶色の粉末が湿気のある空気中で橙色へ、酸性の蒸気中では黄色へと変化した。こうした動きはベイポクロミズムと言われ、水分や有毒ガスを検出するセンサーなどへ応用が期待される。
開発した合成法は、高レベルで官能基化したナノグラフェンを合成するためのプラットフォームとして使用できる。合成した機能性ナノグラフェンはそれぞれ独特な特性を持つことから、ガスセンサー材料や光駆動型メモリ、ドラッグデリバリーなどへの展開が期待される。
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