続・量産開始後も続くODMメーカーとの関係:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(13)(2/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第13回は、前回に引き続き「量産開始後のODMメーカーとの関係」について取り上げる。
4.設計変更
量産開始後の設計変更は、極力避けたい。その理由は、変更によって新たな問題が発生する可能性があるからだ。もちろん、変更後には試作セットを作製し、必要な検証(試験や測定)を実施するが、日程や工数的な都合から、生産前の設計過程で実施した全ての検証は行わない。
しかしながら、次のような場合には設計変更が必要となる。
- ユーザーの元で不良が発生し、今後も同じ不良が発生する可能性があると判断した場合
- 量産開始後に設計ミスが見つかり、今後ユーザーの元で不良が発生する可能性があると判断した場合
設計変更の手順
設計変更の手順については、基本的にはODMメーカーのやり方に従うのがよい。だたし、設計変更の指示を出すのはスタートアップであることが原則だ。ODMメーカーの独自判断によって、スタートアップの知らないうちに設計変更されてはならない。なぜなら、スタートアップ自身が製品の品質を把握できなくなってしまうからだ。
以下に、設計変更の手順について説明する。
- スタートアップが設計変更の概要をODMメーカーに連絡
- ODMメーカーがスタートアップに下記を連絡
- 変更する設計内容/部品/金型など
- 変更に伴って行う検証(試験と測定)内容
- 変更日程(変更開始〜量産導入)
- 変更費用と製品コスト(製品コストに変更がある場合)
- 変更後の1台目の製品のシリアル番号(管理番号)
- 変更前部品の在庫処置(在庫があり、修理部品として使用できなければ破棄)
- 関連して変更が必要なもの(カタログ/取扱説明書など)
- 2.の内容をスタートアップが承認
- 設計変更開始
- 検証レポートの入手
- 変更後の承認製品の作製と承認
- 変更部品の量産導入
上記の1.2.については、あらかじめフォーマットを作成しておくとよい。
5.在庫処分
ODMメーカーが在庫している部品が使えなくなった際、スタートアップはその部品を買い取らなければならない。ほとんどの場合、買い取っても使い道がないので破棄となる。このような部品の在庫処分は、以下のような場合に生じる。
- 生産が中止になったとき
- 長期にわたり生産がないとき(長期の具体的期間は、取り決めが必要)
- 設計変更によって変更前の部品が使えなくなったとき
基本的には、スタートアップがODMメーカーに製品を発注し、その生産数に応じてODMメーカーが部品を購入する。ただし、例えば、ビスや基板上の実装部品などは、部品メーカーからMOQ(最小発注数量)が指定されているため、余分に発注せざるを得ない場合が多い。そのため、ODMメーカーにそれらのリストを事前に作成してもらい、不必要な在庫の買い取りがないようにしたい。
6.4M変更
4M変更とは、製品を量産している(ODMメーカーの社内の場合が多い)工場や部品を製造しているメーカーが、量産中に、Man(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(方法)を変更することだ。これらに変更がある場合、スタートアップは連絡を受ける必要がある。なぜなら、変更によって、製品の品質が変わり不良が出る可能性があるからだ。
Manの変更とは、製造現場の作業者が、技術レベルの異なる作業者に変更されることを指す。このような変更は、日本ではあまり発生しない。
Machineの変更とは、製品や部品の量産に関わる装置や治具の変更である。例えば、樹脂部品の場合、射出成形機が変更になると部品形状が微妙に変化することがある。
Materialの変更とは、材料の変更を指す。樹脂材料などは、樹脂の種類(例えば、ABS)しか指定していなければ、別メーカーや別型番のABSに変更される場合がある。基板上の実装部品やビスなども同様だ。材料や汎用(はんよう)的な小物部品は類似品が非常に多く、特に海外では、知らないうちに類似品に変更されてしまい不良が発生するケースが頻繁に見られる。
Methodの変更とは、製品や部品の製造方法、あるいは検査の仕方などの変更である。この変更は、製品の品質に影響を与える可能性が高い。
これらの変更が発生する場合には、たとえ事後であっても、ODMメーカーからスタートアップへ連絡をもらう必要がある。スタートアップは、変更内容が製品の品質に与える影響についてODMメーカーから説明を受け、その影響が大きいと判断した場合には、品質を確認するための試験や測定をODMメーカーに依頼しなければならない。
7.生産設備メンテナンス
金型や治具、装置/設備は必ず劣化する。これらの中に、スタートアップの製品のためだけに使用されるものがある場合、それはスタートアップの固定資産となることが多く、メンテナンス費用が発生する。そのため、その費用負担の対処方法を事前に決めておく必要がある。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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