生体に安全な材料を用いて、機能性成分を内包するマイクロカプセルを開発:医療技術ニュース
産業技術総合研究所は、生体に安全な材料だけを用いて、大きさがそろった20μm以下の微小液滴「マイクロカプセル」を開発した。細胞や核酸などを内包でき、医薬品等への応用が期待される。
産業技術総合研究所(産総研)は2025年6月25日、生体に安全な材料だけを用いて、大きさがそろった20μm以下の微小液滴「マイクロカプセル」を開発したと発表した。細胞や核酸、ナノ粒子などを内包でき、医薬品や再生医療、食品などへの応用が期待される。同志社大学との共同研究による成果だ。
今回開発した手法は、産総研が研究を進める「マイクロ流体デバイス」を活用。このデバイスの材料として使われるシリコーンゴム(PDMS)は、生体適合性が確認された安全性の高い材料で、脱水する性質を持つ。
この性質に注目し、ポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(DEX)の2種類の水溶液を混合した。この混合水溶液を20μm幅のマイクロ流路に導入すると、水分がPDMS製の流路壁中をゆっくり通り抜け、流路内でPEGとDEXの濃度が高まる。その結果、油と水のように分離する水−水相分離が生じ、DEXを主成分とするマイクロカプセルが自然と形成される。
その際、マイクロカプセル同士の余分な合体が抑えられ、大きさがそろったマイクロカプセルが一列に整然と並んだ状態で安定する。マイクロ流路の幅を変更すると、5〜20μmの範囲でマイクロカプセルの大きさを精密に制御できた。
また、混合溶液にあらかじめ物質を加えると、マイクロカプセル内部に効率よく物質を内包できた。実験では、核酸や抗体、ナノ粒子、大腸菌を内包できることを実際に確認している。
同技術は、他のさまざまな高分子材料にも適用可能だ。油や界面活性剤を使用しないため、製品への残留や環境負荷などの課題を解決できる。今後は、マイクロカプセルの大きさや有効成分の封入技術の高度化と量産化技術の確立を目指すとしている。
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