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がんの栄養経路を断つ新たな精密医療を開発:医療技術ニュース
大阪大学は、腫瘍組織の要となるニコチン酸アミドという代謝経路を標的とし、腫瘍の増殖を抑制する新たな分子標的薬を開発した。腫瘍微小環境を制御する新たな治療戦略となる。
大阪大学は2025年6月10日、腫瘍組織の要となるニコチン酸アミドという代謝経路を標的とし、腫瘍の増殖を抑制する新たな分子標的薬を開発したと発表した。代謝経路を標的とすることで、腫瘍組織内の線維芽細胞の生存と進展を抑制し、免疫担当細胞の疲弊という悪循環を断ち切ることが可能だ。
がんの代表的な特徴であるエピジェネティックな機構は、核酸やタンパク質などさまざまな分子のメチル化を通じて、生理機能の活性に関わることが知られている。
がん関連線維芽細胞(CAF)に高発現するニコチン酸アミドメチル化転移酵素(NNMT)によりメチル化されたメチル化ニコチン酸アミド(MNAM)は、免疫担当細胞のインターフェロンの生成を阻害する。その結果、抗腫瘍細胞が十分に機能しなくなる。
そこで研究グループは、CAFで活性化しているNNMTを精密に標的化し、腫瘍微小環境をピンポイントで改善することを目的とした。開発した分子標的薬は、配列のスクリーニングと核酸の人工合成の手法により、CAFで特異的なタンパク質(FAP)を目印にNNMT遺伝子を担う人工的鋳型を用いた核酸医薬だ。
動物試験により、この人工的鋳型アンチセンス薬は、腫瘍微小環境の改善と難治がんに対する抗腫瘍効果が示された。
今回開発した手法は、細胞内の標的分子を迅速かつ精密に制御できる方法として、さまざまな難治性疾患への応用が期待される。
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