より早期のアルツハイマー病診断に応用可能な血液マーカー:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、血漿マーカーのアミロイドβ42/40比が、従来のアミロイドPET検査よりも早期にアルツハイマー病の中心的病理である脳内アミロイドβ沈着を高精度に判別できることを示した。
慶應義塾大学は2025年6月12日、簡便な血液検査のHigh Sensitivity Chemiluminescence Enzyme-immunoassay(HISCL)を用いたアミロイドβ42/40比で、従来のアミロイドPET検査よりも早期にアルツハイマー病(AD)の中心的病理である脳内アミロイドβ(Aβ)沈着を高精度に判別できることを示したと発表した。血漿Aβ42/40は、前臨床ADスクリーニングへの応用が期待される。
この研究は、日本人認知症コホートを対象に、血漿バイオマーカーによるADの診断および病期評価の有用性を検討したものだ。検討したバイオマーカーはAβ42/40比、リン酸化タウ181(p-tau181)、リン酸化タウ217(p-tau217)、グリア線維性酸性タンパク性(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)で、ROC解析により評価した。
その結果、AD病理を持つとされるAβPET陽性を予測するAUCは、Aβ42/40で0.937、p-tau217で0.926と高精度だった。また、感度はp-tau217で0.905、特異度はAβ42/40で0.947が最も高く、それぞれ有望な指標であることが示された。
病期評価では、Aβ42/40比は症状が現れる前の前臨床期から有意に異常値を示した。PET定量値20を判別することが可能で、現在AD疾患修飾薬の適応診断に用いられているアミロイドPET視覚読影の定量値33よりも低値だった。このことから、血漿バイオマーカーであるAβ42/40比が、アミロイドPETよりも早期に病理を検出できる可能性が示唆された。
現在のAD疾患修飾薬の適応診断では、腰椎穿刺による脳脊髄液検査とアミロイドPET視覚読影が保険適用されている。しかし、これらの手法は侵襲性の高さや費用や設備面での制約など課題が残る。また、近年実施されているAD疾患修飾薬の治験の多くは、対象を認知症の治療から前臨床ADにシフトしている。そのため、前臨床ADをできるだけ早期かつ正確にスクリーニングする方法が求められている。
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