製造業で「成果が出るDX」と「停滞するDX」、促進のための政府や団体の支援策:ものづくり白書2025を読み解く(2)(2/2 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2025年版ものづくり白書」が2025年5月30日に公開された。本連載では「2025年版ものづくり白書」の内容からDXや競争力などについてのポイントについて抜粋して紹介している。第2回では、競争力強化に向けたDXの在り方と政府の支援について取り上げる。
GXを推進する土台となるDX
さらに、国際的な地球環境問題への意識の高まりから、企業にはGX(グリーントランスフォーメーション)が求められているが、これらを推進するためにもDXは欠かせない。事業者ごとに加え、サプライチェーン横断でのデータ/デジタル技術の活用が必要となるためだ。
そのため、政府ではデジタル技術を活用したさまざまな地球環境問題対策への取り組みを支援している。2024年度補正予算では、省エネ支援パッケージとして、エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入や省エネ診断に対する支援を行っている。可視化や最適化を含め、GXへの第一歩としての省エネ対策を後押ししている。具体的には、省エネ設備への更新を支援する「省エネ・非化石転換補助金」では省エネ効果が高いEMSについて導入支援補助金を用意している。

省エネ/非化石転換補助金の枠組み[クリックで拡大] 出所:2025年版ものづくり白書内資料、経済産業省「第47回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 事務局資料 更なる省エネ・非化石転換・DR(デマンドレスポンス)の促進に向けた政策について」
ウラノス・エコシステムでGXを推進
サプライチェーン横断のGXについては、経済産業省が情報処理推進機構(IPA)や業界団体とともに構築に取り組んだ「ウラノス・エコシステム」の活用を推進している。
先行ユースケースとして、官民が協調して、自動車や蓄電池サプライチェーン上の企業間において営業秘密保持やアクセス権限確保を実現しながらカーボンフットプリントを算出するためのデータ連携システムを構築した。このシステム運営は、自動車、自動車部品、蓄電池の各業界団体が共同で設立した「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」によって担われている。
ウラノス・エコシステムは、Catena-X(欧州などにおける自動車のバリューチェーン全体でデータを共有する枠組み)など海外プラットフォームとの相互運用性確保なども進められている。今後、ASEANなどの海外との連携も目指しているという。また、製品に含有する化学物質情報をサプライチェーン上で連携し、リサイクル情報の伝達まで行うことで、資源循環にも資するデータ連携システムの構築などにも取り組んでいる。

自動車、蓄電池業界横断のデータ連携基盤構築の例[クリックで拡大] 出所:2025年版ものづくり白書内資料、経済産業省「第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 資料製造業を巡る現状の課題と今後の政策の方向性」
セキュリティや国際間データ利活用などの環境整備も推進
DXを推進する中で、その利便性の一方で、セキュリティやデータプライバシーなどのルール作りは欠かせない。事業環境を確保するために、政府ではルールやガイドラインの整備に取り組んでいる。
工場セキュリティについては、2022年11月に「工場システムにおけるサイバーフィジカルセキュリティ対策ガイドライン」を策定している。さらに最近の状況の変化などに対応した「別冊:スマート化を進める上でのポイント」を2024年4月に公開している。
一方、国際的なデータ共有や利活用についての安全を確保するため、DFFT(Data Free Flow with Trust、信頼性のある自由なデータ流通)の理念のもと「産業データの越境データ管理などに関するマニュアル」を策定している。企業の実務担当者向けにデータ管理の指針となるようなリスクと打ち手の具体策をまとめている。
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