SpaceXやAppleに見る、日本のモノづくり力を過去の栄光とした先進の材料設計とは:マテリアルズインフォマティクス(4/4 ページ)
エンソートのマイケル・ハイバー氏が「研究開発におけるAI活用事例:マテリアルズインフォマティクスによる材料探索と製品開発」と題した講演を行い、日本のモノづくり力を超える原動力となりつつあるAIを活用した先進的な材料設計について説明した。
LLMの苦手をエージェントが解決
「材料/化学物質探索のための生成モデル」についてはこれまで、ユーザーが求める分子や材料で候補となる構造を生成するために、変分オートエンコーダー(VAE)、敵対的生成ネットワーク(GAN)、グラフニューラルネットワーク(GNN)、拡散モデル、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)、トランスフォーマーといった新しいニューラルネットワークアーキテクチャが設計されてきた。
ニューラルネットワークアーキテクチャを扱えるツールには、データセットが少なくても、大規模で複雑な材料に対して良好な候補を生成するとともに、生成された候補物質の合成可能性を予測できるものもある。こういったツールで代表的なものとしては、「cG-SchNet」「STONED-SELFIES」「REINVENT」「GaUDI」「Chemeleon」がある。
「特化型大規模言語モデル(LLM)およびLLMエージェント」の用途としては、「知識の抽出と要約」「ラボアシスタントとエージェントAI」「化学反応や物性の予測」がある。
「知識の抽出と要約」は研究開発におけるLLMのユースケースで最も多い。「LLMは人間の言語を模倣するように設計/最適化されているため、言語ベースのタスクで非常に高いパフォーマンスを発揮する。幾つかのLLMツールでは、公開されている研究文書から重要な情報を抽出しそれを要約してユーザーに提示でき、資料を調べる時間を減らせる。最近のLLMツールでは、情報を抽出した文書にリンクを搭載でき、結論の裏付けを確認したり、具体的な情報を読み込めたりする。一般的な化学の質問や問題に関しては、現状最良のLLMは、典型的な修士レベルの化学者と同等のパフォーマンスを発揮しており、特に言語ベースの化学的な問いに強い。しかし、LLMは依然として論理的/数学的な処理を多く必要とする問題には苦戦することがよくある」(ハイバー氏)。
こういったLLMの課題を解消するのが、LLMを他のツール(他のLLMも含む)に接続して活用するラボアシスタントやLLMエージェントだ。ハイバー氏は「LLMに、多数の計算やシミュレーション、専門的な処理が求められる場合に他の『エージェント(代理システム)』に処理させるのがLLMエージェントとなる。こうした『エージェント型AIシステム』は、多様なタスクを実行するように設計/最適化でき、完全自律的に動作することもある。自然言語インタフェースも備えているため、初心者の研究者でも簡単に使える」という。
また、LLMを用いた物性の予測は、一般的な言語ベースのタスクよりも困難だが、少数のデータ例(フューショット)からパターンを学習できる。「LLMは基盤モデルとして持つ事前学習の能力を活用し、少しの問題例やデータセットからでも素早くパターンを学び、良好な物性予測を行える可能性がある。この能力は既に言語分野では高く評価されているが、最近ではこれを物性の数値予測、つまり言語以外の予測に応用しようという取り組みも進んでいる。物性の予測に優れた機械学習モデルや従来型のディープラーニングモデルも存在する。これらは大量のデータを必要とするが、LLMは『化学の言語』を学ぶことで、わずかなデータしかない場合でも、ある程度正確な予測が行えるようになるかもしれない」(ハイバー氏)。
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