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SpaceXやAppleに見る、日本のモノづくり力を過去の栄光とした先進の材料設計とはマテリアルズインフォマティクス(3/4 ページ)

エンソートのマイケル・ハイバー氏が「研究開発におけるAI活用事例:マテリアルズインフォマティクスによる材料探索と製品開発」と題した講演を行い、日本のモノづくり力を超える原動力となりつつあるAIを活用した先進的な材料設計について説明した。

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AIが変革する材料開発

 AIを用いた材料の高速設計/開発は、関連する部品やシステムとの協調を行いそれらに適したものを創出することで、最終製品全体の最適化を達成し、燃費の効率化や電気自動車(EV)の走行距離延長などを実現できる。

 ハイバー氏は「こういった材料の高速設計は『コンカレントマテリアルズデザイン(コンカレント材料設計)』と呼ばれている。コンカレントマテリアルズデザインでは、ティア3のサプライヤーが、材料の組成、加工条件、その他の要素に基づいて、複雑な多機能特性を正確に予測するAIモデルを構築する。そして、このAIモデルを備えたさまざまな材料の設計システム(空間)を通して、自動車メーカーなどの顧客に開発を進める製品の部品やシステムで最適な材料の情報や機能を提供する。これにより、ティア3のサプライヤーは、最終的に販売する材料に加え、データ駆動型のエンジニアリングサービスを付加した『付加価値型製品』も販売できるようになる」と述べた。

AIが実現するパラダイムシフト:「材料選定」から「コンカレント材料設計」
AIが実現するパラダイムシフト:「材料選定」から「コンカレント材料設計」[クリックで拡大] 出所:エンソート

 このサービスを利用することで、ティア2の部品設計者たちは、材料に対するアプローチの自由度を高められるようになる。その結果、材料の組成、加工方法、部品設計、コストといった複数の要素を同時に最適化することが可能となり、従来よりも優れた製品やソリューションを生産できるようになるという。

 コンカレント材料設計は既に、Dow(ダウ)、Covestro(コベストロ)、3M、Apple、SpaceX、Teslaなどの企業がその活用を公に発表している。

 「SpaceXでは、『Fail Fast(早く失敗して早く改善する)』という考え方のもと、単に部品を変更するだけでなく、使用する材料自体も変更/最適化することに強い関心を持っている。そして、冶金(メタラジー)、合金設計、加工技術の専門家たちが、システムレベルのエンジニアたちと連携しながら、最終的なロケットの設計を行っている。そして、表には出ていないものの、こうした取り組みは世界中で多数進行しており、私たちがまだ知らないだけで、同様のイニシアチブは数多く存在している。つまり現在、私たちはこの新たなパラダイムシフトの入り口(cusp)に立っているのだ」(ハイバー氏)。

研究開発を変えるAI

 コンカレント材料設計を推進しているAIやマテリアルズインフォマティクスといったデータサイエンスの動向に関して、2015年の段階ではデータサイエンスは注目の研究分野だったが、物理学への応用やインパクトは限定的だった。

 直近5年間は学術界の材料/化学研究において、データサイエンスの手法がイノベーションをけん引する事例が爆発的に増加している。この成長は、材料科学や化学の課題に特化/最適化された、より専門的なデータサイエンスツールの開発と利用によって触発された。

 材料/化学分野におけるデータサイエンスツールとしては、「大規模かつ高品質なオープンデータセット」「機械学習ベースの原子ポテンシャルを活用した高速なシミュレーションツール」「物性予測に特化したアルゴリズム」「機械学習モデルへの物理法則の組み込み」「専門化された多目的最適化アルゴリズム」「材料/化学物質探索のための生成モデル」「特化型大規模言語モデル(LLM)およびLLMエージェント」が挙げられる。

 中でも、ハイバー氏が材料開発で重要だとするのが「専門化された多目的最適化アルゴリズム」「材料/化学物質探索のための生成モデル」「特化型大規模言語モデル(LLM)およびLLMエージェント」だ。

 「専門化された多目的最適化アルゴリズム」は従来のベイズ最適化(機械学習の1つ)の課題を解消する。従来のベイズ最適化では、高次元/多目的の最適化問題に対しては計算が遅く、複雑な制約条件の定義や適用が困難だ。分子構造、添加剤、プロセス条件の選択に関する設計空間が連続的でなく、実験が非同期のバッチ処理で実行されることも多い。開発が一連の複雑な小規模設計ループによって行われる他、実験結果に含まれる不確実性が最適化アルゴリズムを混乱させる可能性もある。さらに、研究開発の意思決定が不完全な情報や精度の低い予測に基づいて行われがちだ。

専門化された多目的最適化アルゴリズムが製品開発を加速
専門化された多目的最適化アルゴリズムが製品開発を加速[クリックで拡大] 出所:エンソート

 これらの課題を解決するため、国内外ではさまざまな学術研究と新しいツールの開発が進められている。例えば、多目的最適化アルゴリズムの新しいツールとしては「Gauche」「scikit-matter」「Bofire」「BayBE」「Atlas」「AIスーパーモデル」が挙げられる。

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