EV専用工場は作らないがEV比率100%も可能、マツダの電動車生産:モノづくり最前線レポート(3/3 ページ)
EVの専用工場をつくらないと宣言したマツダ。さまざまなパワートレインの車両を混流生産すれば、EV専用工場の新設に比べて設備投資を大幅に抑制できる、というのがその理由だ。ラージ商品群や電動化に合わせて導入した最新の混流生産はAGVがカギを握る。
計画順序生産では、2カ月前に生産量が、2週間前に生産の順序が決まる。塗装工程の効率に配慮して同じボディーカラーの車両をある程度まとめたり、PHEVを一定間隔にしたりするが、ユーザーへの納期確約のために受注した順に生産する。計画順序生産の順序を変更する場合はマツダ側で変更の手間を負担して計画を守る。サプライヤーは事前に指定された順序を守ればよい。
計画順序生産は、防府第2工場だけでなく本社工場とも共通の取り組みで、サプライヤーもマツダが指定した順に部品を並べた状態で納入する。サプライヤーとマツダの生産拠点が1つの工場のように動くことで余分なリードタイムをなくす。また、生産ラインで部品を取り出す間口を集約するメリットがある他、順序を決めて在庫による潜在的なロスを顕在化することでサプライヤーの在庫低減にも貢献するとしている。
AGVではないベルトコンベヤーの区間でも、混流生産のための柔軟性を持たせている。ドアなどの組み立て工程でも、計画順序生産に基づいてさまざまな車種と仕様が流れてくる。オペレーターがそのたびに部品選択に迷うことがないよう、「同期キットサプライ」で1台分の必要な部品のセットも流している。部品を取るための歩行や動作を最小化するだけでなく、部品の種類数の差を吸収し、品質を作り込みやすくする。
安い買い物ではないAGV、デジタルツインで必要な台数を見極め
AGVによる「根の生えない生産設備」は、ラージ商品群の投入が始まる4年ほど前の2018年ごろから構想してきた。2台1組のAGVでエンジンや足回り部品を搭載する工程では合計30台のAGVが稼働しており、他の工程や今後の増産でAGVを増やすことも考えると決して少なくはない台数となる。常務の弘中氏も「安い買い物ではないので必要な台数だけを入れたい」と述べる。
生産ラインのデジタルツイン化による事前の検証が、投資抑制に貢献した。「事前に机上計算で何台のAGVが必要なのかをかなり検証し、投資を抑えられている」(弘中氏)。生産ラインの設備やロボットをモデル化してデジタルに把握するのはこれまでにも取り組んできた。今回はAGVを群としてデジタルツイン化し、稼働率と必要な台数を見極めた。「リアルなトライアンドエラーでは『もっと台数がいるんじゃないか』『この稼働率ならこの台数では』とやらなければならなかった」(同氏)
生産ラインのメインラインは一定の時間で流れ、サブラインを構成するAGVはそれに合わせて動く必要がある。また、生産台数が増えればAGVも増えるため、マツダは複数台のAGVの統合制御によってメインラインに合わせて緻密にAGVを動かす。
AGVは保全作業の部署による専門保全だけでなく、オペレーターによる始業前の日常点検や給油、増し締めなど自主保全活動によってメンテナンスしていく。掲示板「活動板」が各工程に設置されており、自主保全活動の進捗や情報を共有する。AGVの台数が増えればメンテナンスの効率化もテーマになる。
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