振動発電デバイスを支えるFe-Ga磁歪合金 高品質な単結晶育成法を採用:材料技術
住友金属鉱山は「Smart Sensing2025」で開発品として「鉄ガリウム(Fe-Ga)磁歪合金単結晶」を披露した。
住友金属鉱山は、「Smart Sensing2025」(2025年6月28〜30日、東京ビッグサイト)で、開発品として「鉄ガリウム(Fe-Ga)磁歪合金単結晶」を披露した。
垂直ブリッジマン法を採用
Fe-Ga磁歪合金単結晶は、IoT(モノのインターネット)機器の独立電源で使用される振動発電デバイスの材料となる。住友金属鉱山の説明員は「磁歪材料は、磁力を近づけると伸縮する他、力をかけてひずませると磁力が発生する。鉄は磁力を持つ素材だが単体だと硬くてひずまない。しかし、常温でも液体の金属であるガリウムを配合することで柔軟性を備えたのがFe-Ga磁歪合金だ」と話す。
住友金属鉱山は、Fe-Ga磁歪合金単結晶の結晶育成方法として、温度勾配を設けた炉中でるつぼの下部に種結晶を配置し、るつぼ内の融液を徐々に降下させることで一方向に凝固させ単結晶を育成する垂直ブリッジマン(VB)法を採用。これにより、結晶内での組成におけるばらつきが小さく高品質な単結晶を育成する技術を確立した。
この技術を用いて、66×100mmまでの四角柱形状の単結晶育成が可能だ。育成した結晶が持つ磁歪量は約300ppmと大きく、値のばらつきが少ないため、IoT向けの磁歪材料に適している。住友金属鉱山では、これらの単結晶を加工することで、板材を中心にさまざまなサイズ、形状のサンプル作製に応じている。
同社は、金沢大学が開発した磁歪式誘導発電デバイス「V-GENERATOR」のマッチングコミュニティー「V-COLLABO」に磁歪材料メーカーとして参画している。V-GENERATORは、U字型のフレームに板状のFe-Ga磁歪合金を装着し、これにコイルを巻き、中央に永久磁石を配置したものだ。
このデバイスは、先端に錘(おもり)を取り付け振動する物体に固定すると、錘に働く慣性力で錘が上下に振動する。この振動でフレームが変形し、Fe-Ga磁歪合金に引っ張りと圧縮の力が交互に作用。この時、逆磁歪効果で合金の磁束が変化し、この磁束の変化に応じてコイルに起電力が発生する。
会場では住友金属鉱山が開発したFe-Ga磁歪合金単結晶を備えたV-GENERATORも展示された。「このデバイスは2時間くらいで5ミリワット(mW)発電できる。例えば、橋や道路向けのモニタリング装置にV-GENERATORを取り付けることで、自動車の走行で生じる振動により発電できる。この電力は自動車の走行で発生する振動の波形データを無線で送るために使える」(住友金属鉱山の説明員)。
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