従来の100万倍高速でガラス基板にレーザー加工 次世代半導体に貢献:研究開発の最前線
AGCは、東京大学 講師の伊藤佑介氏や特任助教の張艶明氏らとAGCの研究グループが、ガラスなどの透明材料を従来の100万倍の速度でレーザー加工できる新しい手法を発明したと発表した。
AGCは2025年6月12日、東京大学 講師の伊藤佑介氏や特任助教の張艶明氏らとAGCの研究グループが、ガラスなどの透明材料を従来の100万倍の速度でレーザー加工できる新しい手法を発明したと発表した。
同社は2015年に、東京大学大学院工学系研究科内に社会連携講座を開設し、ガラスの先端技術創出を目的とした共同研究を実施している。
自己修復性を持つ特殊なレーザービームを活用
米国のインテル(Intel)が2023年に、次世代型の半導体においてガラス基板を活用することを宣言して以降、ガラスへの微細加工技術の開発競争が世界中で加速している。
しかしながら、ガラスはその硬さと脆(もろ)さゆえに加工が困難だ。近年では、化学薬品などによって目的の形状を形成するエッチングを活用した加工法が期待されているが、工程の多さに伴う長い加工時間や、環境負荷が問題となっている。
そこで、エッチングを使わない加工技術として、レーザー加工が注目されている。しかし、従来手法では、半導体用途で要求される微細な穴形状(深さ1mm以上、直径100μm以下の貫通穴)を1つ作るために、数十秒を要す。実用上、1秒間に1000個以上の微細穴を形成することが求められるため、ブレークスルーとなる技術の開発が望まれていた。
今回、東京大学の伊藤氏や張氏らとAGCによる研究グループは、レーザーの時間波形と空間波形を制御することにより、加工速度を従来比で100万倍高速化することに成功した。
この研究に先立ち、同グループでは2018年に、ガラス内部に一時的に自由電子を生成し、光吸収性を増大させた領域のみを選択的に高速加工する「過渡選択的レーザー加工法(TSL加工法=Transient and Selective Laser加工法)」を開発していたが、半導体産業の要求を満たす速さ、形状、精密性を実現できていなかった。
今回の研究では、時間波形の制御に加え、空間波形を制御した「ベッセルTSL加工法」の開発により、速さ、形状、精密性の全てで改善に成功した。
ベッセルTSL加工法では、レーザーの空間波形をベッセルビーム(自己修復性を持つ特殊なレーザービームの1種)に整形することで、光強度分布を高アスペクト比(ここでは穴の深さと直径の比率を表す)なライン状に制御した。
時間波形については、ピコ秒(10のマイナス12乗秒)オーダーの鋭いレーザーパルスと低強度のマイクロ秒オーダーのレーザーパルスを重畳させることで、ガラス基板の表面から裏面を貫く高アスペクト比な自由電子領域を生成し、その領域のみの選択的な超高速加熱/蒸発を実現した。
これにより、加工時間20マイクロ秒(従来比100万倍速)で、深さ1mm、直径3μmの超高アスペクト比の穴あけ加工に成功した。穴の直径は、マイクロ秒レーザーの照射時間という単一のパラメーターで制御できる。さらに、従来のレーザー加工で問題となっていた加工時のクラック(亀裂)や穴形状のゆがみがない精密な加工も達成した。
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