安全で安価なフッ化カリウムを活用し、長期保存可能な新規フッ素化剤を合成:研究開発の最前線
芝浦工業大学は、フッ化カリウムから、反応性が高く長期保存が可能な新規フッ素化剤Bu4NF(HFIP)3を、簡便かつ高効率で合成する手法を開発した。支持塩兼フッ素化剤として有機化合物の電解フッ素化に使用できる。
芝浦工業大学は2025年6月3日、フッ化カリウム(KF)から新規フッ素化剤であるBu4NF(HFIP)3錯体(テトラブチルアンモニウムフルオリド誘導体)を、簡便かつ高効率で合成する手法を開発したと発表した。Bu4NF(HFIP)3錯体は、支持塩兼フッ素化剤として有機化合物の電解フッ素化に使用できる。
医薬品や農薬、機能性材料、陽電子放出断層撮影(PET)などで利用される有機フッ素化合物の合成には、フッ素化剤が必要とされる。しかし、多くのフッ素化剤には毒性や腐食性、爆発性といった難点があり、かつ非常に高価であることが利用の妨げとなっていた。
研究グループは、安全で安価なフッ素化剤であるKFが、フッ素化アルコールの1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解する特徴に着目。HFIP中でのテトラブチルアンモニウムブロミド(Bu4NBr)とのイオン交換反応により、Bu4NF(HFIP)3錯体を合成することに成功した。
合成したBu4NF(HFIP)3錯体は、吸湿性が極めて低く、長期保存が可能だ。合成から3カ月が経過しても、ほとんど吸水していないことが確認された。
従来のフッ素化剤である無水Bu4NFは、テトラブチルアンモニウムイオン(Bu4N+)の対イオンであるフッ化物イオン(F−)が高い反応性を示す一方で、吸湿性が高く反応性が大きく低下することが課題だった。
Bu4NF(HFIP)3錯体は、F−とHFIP間の水素結合を制御することで、反応性と吸湿性のスイッチングが可能になると見込まれる。また、安全、安価かつ反応性の高いフッ素化剤としてだけではなく、イオン液体としての応用も期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
アルファ型二酸化マンガンの極小ナノ粒子を短時間で合成する手法を開発
北海道大学らは、アルファ型二酸化マンガンの極小ナノ粒子を短時間で合成する手法を開発した。球状形態に近づけ、粒子のアスペクト比を小さくすることで、次世代多価イオン電池の正極特性を改善する。環境中のナノプラスチックの化学的特性を解析する手法を新たに開発
芝浦工業大学は、マイクロバブルと原子間力顕微鏡、赤外吸収分光法を組み合わせて、ナノプラスチックの化学的特性を解析する新手法を開発した。開発したAFM-IRにより、ナノ粒子の分子構造の情報を高精度に計測できる。無人惑星探査車のシャシー形状の変化からスリップ状態を検知可能に
芝浦工業大学は、無人惑星探査車のシャシー形状の変化からスリップ状態を検知するシステムを開発した。人間の筋肉から着想を得たシステムで、より精度の高いスリップ検知を可能にする。柔軟な触覚センサーで手指の微細な動きを高精度に識別するシステムを開発
芝浦工業大学は、電気インピーダンストモグラフィーを活用した柔軟な触覚センサーを用いて、手指の微細な動きを客観的に評価するシステムを開発した。RSNPを利用して、複数のロボットから情報を集約する実験を実施
芝浦工業大学と産業技術大学院大学は、サービスロボット用の通信プロトコルRSNPを介したネットワーク実験を実施し、6種類のサービスロボットから多様な情報の集約を検証したと発表した。