「フードの変更20mm以内でデザインを修正して」、ホンダが設計検討にAI活用:人とくるまのテクノロジー展2025
ホンダは「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」において、自然言語駆動型3Dモデル生成技術による車両デザイン検討の取り組みについて発表した。PoCは完了し、量産車の開発に適用し始めている。
ホンダは「人とくるまのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA」(2025年5月21〜23日、パシフィコ横浜)において、自然言語駆動型3Dモデル生成技術による車両デザイン検討の取り組みについて発表した。PoC(概念実証)は完了し、量産車の開発に適用し始めている。
自動車のフロント周りのデザインを検討する段階において、「フードは20mm以内の変更量で、グリル高さは変更せずに性能を満足するモデルを作成して。他の位置は制約なしで」などと生成AI(人工知能)に指示すると、歩行者(脚部)保護性能を満たした複数の3Dデザインを作成できる。
従来は、デザイナーが提案したコンセプトを歩行者保護性能の設計担当者が確認して変更箇所の案を作成し、会議で議論した内容を踏まえてデザイナーが修正するというサイクルを繰り返していた。この1サイクルに2〜3週間かかっており、さらに複数回実施するため数カ月かかることも珍しくなかった。
これに対し、発表した取り組みでは生成AIがデザインの修正案を作成することで性能確認やデザイン変更を同時に議論し、意思決定できるようになる。1週間程度でデザインと衝突安全性能の整合がとれ、現場の負担軽減と開発の効率化を両立する。
フロント以外のデザインにも適用可能
この取り組みは、AIとの対話からユーザーの要求を抽出するLLM(大規模言語モデル)、歩行者保護性能を評価するサロゲートモデルと最適化技術、形状を作成するモーフィング技術の3つを連携させることで実現した。サロゲートモデルをソルバーとした最適化技術とモーフィングでの形状変更で高速に処理を行い、AIに指示するだけで複数のデザイン修正案が作成される。
側面衝突や後面衝突のサロゲートモデルがあるため、フロント周り以外のデザインにも適用可能だ。また、流体力学のサロゲートモデルを使って燃費対策の検討を効率化することもできるとしている。
今回の取り組みにおいてAIは、デザイナーが作成したデザインを基に修正案を作成し、AIが最初からデザインするという使い方はしない。また、AIが設計を変更できる範囲は衝突安全性能の設計者が制約条件として定義するため、設計が破綻しない範囲でAIが出力できる。
「デザインも制約条件も人間の意思で決める。デザイナーや設計者が困っていたプライオリティの低い作業を自動化し、やりたい仕事を残すという考えでシステムを構築した。デザイナーや設計者の役割をAIに置き換えるためのものではない。また、現場の困りごとを解決するのが目的なので、開発スピードのために最初からデザインをAIに出力させることも考えていない」(ホンダの担当者)
これまでデザイン検討に長い時間がかかっていたのは、さまざまな要件を同時に満たすため、複数の分野の担当者によるクロスファンクショナル会議で仕様を検討していたからだ。最終仕様が決定するまで何度もやりとりする必要があるだけでなく、デザイン変更案の作成や修正は負荷が高かった。負担となっていたタスクをAIで迅速に処理することで、現場の負担を軽減する。
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