江崎グリコが人体の老化を防ぐ新素材を開発 大阪・関西万博で披露:材料技術
江崎グリコは「2025年日本国際博覧会」で老化細胞除去剤の研究開発を紹介している。同年5月末からはシグネチャパビリオン「EARTH MART」で米由来の素材と砂糖を用いたキャラメルの配布を予定している。
江崎グリコは2025年4月30日、「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」(会期:2025年4月13日〜10月13日)の会場とオンラインで「2025年大阪・関西万博 Glicoグループの活動概要に関する記者説明会」を開催した。
記者説明会では、2025年大阪・関西万博でGlicoグループが協賛する「大阪ヘルスケアパビリオン」と、シグネチャパビリオン「EARTH MART」における取り組みを紹介した。
老化細胞の数が開始時と比べて40%ほどに
江崎グリコは大阪ヘルスケアパビリオンの「ミライのヘルスケア」ゾーンでブースを出展し、「細胞ケア」をテーマに「ヘルシーエージング」の研究などを展示している。
同社では「発育・栄養の最適化」「成長の支援」「運動能力の強化」「脳機能の向上」「ヘルシーエージング」といった5領域で研究戦略を展開している他、おいしさと健康の価値を持つ高品質な素材の追求や素材加工技術などのR&Dを行っている。
「ヘルシーエージング」の研究では「健康なエージング」を目指している。江崎グリコ 基礎研究統括 田辺創一/基礎研究室 健康長寿ユニットの長野太輝氏は「人体において加齢は時間の経過で生じるため予防は不可能だ。しかし、体の老化は老化細胞の蓄積による身体機能の低下であるため予防できる。そして老化細胞の蓄積は酸化、糖化、炎症などによる細胞機能の低下によって起こる。そのため、老化細胞が蓄積しないようにケアすれば体の老化を予防できると考えている」と話す。
人体の正常な細胞は分裂を繰り返す。一方、加齢や紫外線、活性酸素などによりDNAがダメージを受けることで分裂能力を失った老化細胞が生じる。「年齢を問わずこれらの要因で老化細胞が生じるが、若年層の場合は免疫細胞により老化細胞が排除される。しかし、加齢に伴い老化細胞の出現が増えるとともに、この細胞を排除する免疫細胞の機能が低下する。そのため、老化細胞が増えて蓄積され体の老化が進む。そこで、当社は老化細胞の増加や蓄積を防ぐ技術として、ネムノキを用いた老化細胞除去剤の研究開発を推進している」(長野氏)。ネムノキはイランからアジアを中心に分布するマメ科ネムノキ亜科の落葉高木だ。
ネムノキを用いた老化細胞除去剤の研究開発に当たって江崎グリコは、まず素材候補の選定を行った。次にヒト由来細胞を老化細胞に誘導し、約6000の素材を添加。続いて、正常細胞と老化細胞をカウントし、各素材の老化細胞除去能力を評価した。これらの取り組みの中でネムノキが有効だと分かった。
長野氏は「正常細胞と老化細胞を蛍光色素で区別し混合培養を行った後、老化細胞にネムノキの花から抽出したエキスを添加した。その後、顕微鏡で正常細胞と老化細胞の数をタイムラプス撮影で52時間にわたり観察した。その結果、老化細胞の数が開始時と比べて40%ほどに減った。加えて、正常細胞と比べて老化細胞を9.8倍効率よく取り除いたため、正常細胞を生存させられることが分かった。さらに既存の老化細胞除去剤として知られるケルセチンよりも老化細胞を除去する際の選択制が高かった」と述べた。
同社が想定している「老化細胞を除去するネムノキのメカニズム」に関して、老化細胞は発生時から特有の傷を有しているがあるタンパク質が働くことで傷に適応して生き残る。ネムノキはこのタンパク質をブロックするため老化細胞は特有の傷に適応できず消滅する。
同社では既にネムノキを、老化細胞を除去する素材として特許を取得した。今後は、ネムノキを用いた老化細胞除去剤のヒト試験(臨床試験)での検証やメカニズム解明、原材料化を行った後、食品としての事業化を目指す。
お米のキャラメルとは?
シグネチャパビリオンのEARTH MARTでは、キャラメルの製造技術と米由来の素材を組み合わせて開発した「お米のキャラメル」を提供している。お米のキャラメルは、乳由来の素材や添加物を使用せず、「米アメ」「米粉」「米タンパク」「米油」といった米由来の素材と砂糖だけのシンプルな原料で構成される。
江崎グリコ 栄養菓子・補食事業部商品開発部ビスケット商品開発グループの町田貴義氏は「お米のキャラメルは2025年大阪・関西万博のために開発した菓子で、2025年5月末からEARTH MARTに訪れた来場者に提供する。今後、上市する予定はない」とコメントした。
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