セルロースナノファイバーの欠陥を減らす手法とは?:研究開発の最前線
京都大学と東京大学は、従来の作製手法で生じるセルロースナノファイバーにおける折れ曲がりやへこみなどの欠陥の原因を一部特定し、それを抑制することで高品質なセルロースナノファイバーの作製に成功した。
京都大学は2025年4月8日、セルロースナノファイバー(CNF)の製作時に生じることがある、折れ曲がりやへこみなどの欠陥の原因を一部特定したと発表した。これを抑制することで、規則的なねじれを持つ高品質なCNFの作製に成功した。東京大学との共同研究による成果だ。
植物由来のCNFは、軽くて強く、熱で膨潤しにくいといった特性を持ち、持続可能な高機能性材料として注目される。研究グループはこれまでに、CNFの画像を原子レベルで解析し、その表面にへこみがあることを発見。今回の研究では、折れ曲がりなどの欠陥につながる、こうしたへこみの抑制を検討した。
まず、セルロースを植物から取り出すプロセスに着目。植物中では、他の成分がセルロースの周りに付着しているが、これらを除去するとセルロース同士が凝集しやすくなる。この状態で強引に解きほぐそうとすると、表面にへこみが発生したり、ちぎれたりする可能性が生じる。
次に、セルロースを容易に解きほぐすための化学処理プロセスに注目した。従来の手法では、セルロース分子が部分的に切れて短くなってしまうため、CNFの欠陥が増加している可能性があると考えた。そこで、セルロースを取り出すプロセスで周りの成分を可能な限り残す手法に変える、または化学処理をセルロースの切断が発生しにくい穏やかなpH条件に変更するという2つの対策案を検討した。
その結果、どちらの案もCNFの欠陥を抑える効果があることが判明した。こうして得られたCNFは長さが3倍以上もあり、へこみが3分の2程度にまで減少した。加えて、欠陥が減少したCNFには、右巻きのねじれ構造がしばしば観察されることも分かった。このねじれ量を定量的に解析するため、信号処理の1つであるウェーブレット変換を活用し、CNFのねじれを数値化する手法を開発した。
今回の成果は、CNFが本来持つ優れた特性を可能な限り発現させるための基となるものであり、その適用範囲の拡大につながると期待できる。また、異なる欠陥量を持つCNFを得る手法も構築できたため、今後、この欠陥量が材料の特性にどのような影響を与えるかを詳しく調査し、より高性能なCNFの開発につなげる考えだ。
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